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「企業の知恵で農業革新に挑む」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2010.04.15
「企業の知恵で農業革新に挑む」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2010年1月26日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1.来月、農業関係の本を出版されるようですが、どのような内容のものでしょうか?
ダイヤモンド社から「企業の知恵で農業革新に挑む」という本を出版します。これは、東京・霞ヶ関の目線から農業問題を語るのではなく、企業が農業経営など農業にかかわる際に、現行の食料・農業問題や政策にどのような問題があるのか、農業に従事している企業の目線から、分析したらどうだろうかという観点から、書いたものです。具体的には、農業と関わり合いのある、加工、外食、流通それぞれの分野の代表的な、企業や生活協同組合の方々にインタビューをさせていただき、出来上がったものです。
2.たとえば、食品加工業から見た、農業や農業政策の問題とはどのようなものでしょうか?
食品加工業で農業に参入した代表的な企業にカゴメがあります。トマトには、そのままで食べる生食用とケチャップなどの加工用の二つがあります。加工用のトマトは、もともと生食用とは別の品種とした開発されたもので、生食用と違ってハウス栽培ではなく、露地栽培で育てられます。1999年に同社は生鮮トマトのハウス栽培に参入しました。しかし、それ以前に、カゴメは加工用トマトの生産を日本で育成してきました。
まだ日本人がトマトそのものを食べなかった時代から、カゴメはトマトの契約栽培というシステムを育ててきました。通常野菜や果物は卸売市場を経由して流通します。これは、市場に持って行けば、セリという方法で、必ず捌いてくれますが、価格は大きく変動しやすい上、誰が引き取るかは、わかりません。これに対して、契約栽培とは、加工メーカーが農家と一定の農地で作られたトマトを引き取るという契約を結びます。農家にカゴメが求める原料トマトを作ってもらい、カゴメがそれを製品化するというシステムです。
1903年にカゴメの創業者が日本で最初のトマトソースを作っています。日本でもこれ以降、徐々に加工用トマトの生産は増えていきました。特に、この契約栽培という手法が定着したことで、農家にとっては安定した収入が得られるようになりました。1970年、本格的な米の減反が始まりましたが、稲作の転作作物としてもトマトの生産は増えました。
しかし、1972年、トマトを濃縮したトマトピューレ、トマトペーストの輸入自由化が始まった後は、国産加工用トマトの生産は大幅に減少していきました。狭い面積でコスト高になる日本での生産では自由化に対抗できず、消費者の求めるコストの範囲内で収まらなくなっていってしまったのです。米の転作という追い風も、兼業農家の増大によって止んでしまいました。兼業農家は、技術の必要な米以外の作物を作るよりも、栽培の簡単な米単作+兼業という経営形態を選択したのです。
3.今カゴメはどのようにして、原料トマトを調達しているのでしょうか?
自由化直前の最盛期には、カゴメ一社で国産トマトを約23万トン仕入れていたようです。現在、35万トン分のトマトを仕入れていますが、そのうち国産の生トマトはジュース用として2万トン弱に過ぎません。残りの33万トンは、海外で第一次加工をして輸入しています。
4.原料農産物について、海外への依存度が高まっているということですね。
ここに、日本農業の大きな問題があります。現在、国民が購入する食品の内訳は、外食3割、加工食品5割に比べ、生鮮品は2割に過ぎなくなっています。つまり、農産物を直接消費するのではなく、食品加工業や外食産業が加工、処理したものを国民は消費するようになっているのです。これを農業の側から見ると、食品加工業や外食産業は農産物の重要なお得意様になっているのです。
しかし、農業界は依然として生鮮食品重視の販売を行ってきているため、価格や品質面で、食品加工業や外食産業のニーズに合った農産物の供給ができなくなっているのです。農業政策も生鮮食品としての農産物の関税は高く維持しても、菓子などの加工食品の関税は真っ先に引き下げてきました。
国内農業の規模が拡大しない、むしろ縮小するから、コストは下がりません。そうなると、原料を調達する加工企業からすれば、国内では量も揃わないし、品質も一定しない。しかも値段は高い。それでは加工品の関税水準は低いので、海外企業との競争上、自分たちが耐えられないから、海外に進出する道を選ばざるを得ない。海外であれば、農地面積も一定規模確保できるし、制約も少ない。労働コストも低い。現地の人たちを指導できれば、安い価格で安定した品質の原料を確保できるようになるというものです。こうして、日本農業は自分たちの生産物の大事なお客さんをなくしてしまったのです。カゴメはその一例です。20年前までは、食品関連産業のGDPに占める農業のウェイトは22%だったのに、現在では12%に低下しています。農業も農業政策も加工や外食用の重要性を再認識する必要があります。
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