コラム  外交・安全保障  2010.01.15

米朝協議の再開

 米国のボズワース北朝鮮政策特別代表が12月8日から10日まで訪朝し、帰途ソウルで記者会見を行った。ピョンヤンでは姜錫柱第1外務次官や金桂寛外務次官などと会談し、「非核化が進展しないことが米朝関係改善の障害になっている」というオバマ大統領の考えを伝え、また、北朝鮮側と「六者協議の必要性と役割について共通の理解に達した」、「非常に有益で率直かつ実務的に意見を交わすことができた」などと説明したそうである。途切れていた米朝協議の再開であり、記者会見での説明にも力がこもっていた様子が伝わってきた。

 日本としても歓迎すべきことであるが、北朝鮮が協議に復帰すると言ったわけではなく、「北朝鮮が、いつ、どのように六者協議に復帰するかは六者の間でさらなる協議が必要」だそうである。これは、総論は賛成だが各論となるとまた別というよくあることと何が違うのかよくわからない、と言うと失礼であろうか。

 六者協議は2003年に開始されて以来、何回も中断されてきた。さらに問題なのは、この協議と並行して北朝鮮が核兵器と戦略ミサイルの開発を進めたことである。六者協議は北朝鮮の核兵器開発を阻止できなかったし、それどころか、六者協議を行っている間に事態は悪化した。私は、六者協議を再開すること自体には非常に懐疑的であり、米国がそれを重視するからにはこれまでと違った用意と考えがあ るはずだと思いたい。しかし、それは私の願望に過ぎないのであって、客観的に見ればそのように期待できる材料がそろっているか疑問である。

 とくに懸念されるのはやはり米国の対応である。最近の報道によると、米国は「すべてを米朝で解決するという形にはしたくない」という考えだそうだ。これは以前からも言われていたことである。北朝鮮は、中国、ロシア、韓国および日本という軍 事大国、あるいは経済大国に囲まれており、米国としてもそれらの国と協力して北朝鮮が暴発しないようにし、核問題の解決に当たるというのは合理的な考えで あろう。

 しかし、北朝鮮にとって最大の問題はその安全の確保、すなわち体制の維持であり、それ を脅かす恐れがあるのは米国だけである。紙面の余裕がないので詳しく論じることはできないが、必要となれば核兵器を使うオプションは残しておくというのが 米国の核政策であり、北朝鮮はこのため安全が脅かされていると言っている。これは北朝鮮がかねてから何回も、いろいろな場で一貫して主張していることであ り、また、北朝鮮が核兵器を開発する理由にもなっている。

 つまり北朝鮮の核武装問題を解決するにはその安全を確保しなければならず、それをでき るのは米国だけである。他の4か国が北朝鮮との関係で米国と協力するのは当然であるが、こと核政策に関する限り米国以外の国は力にもなれない。したがっ て、米国は北朝鮮に対し核攻撃をしないと約束する腹を固めた上で、「北朝鮮は現在核兵器を持っているのでそのような保障はできないが、核兵器を放棄すれば 核攻撃しないという保障を与える」という態度で北朝鮮との交渉に臨むことが必要である。

 この問題についての見通しをつけることなく、あるいは直ちにそこまで進めないとして も、その方向で努力することなく六者協議を開いても結局同じことの繰り返しになるのではないか。さらに、悪くすれば北朝鮮は5か国で圧力を加えようとして いると反発する可能性もある。実際そうなったこともあった。北朝鮮が反発しても気にすべきでないと考える人がいるかもしれないが、問題によりけりであり、 安全を確保したいというのは当然の願望であり、それを無視するようでは朝鮮半島の非核化は実現できないだろう。

 現在、六者協議の開催は決定されていない。米国は、今回米朝協議を行ったのは中国から の勧めがあったからであり、これからは中国の出番だ、六者協議再開への合意を取り付けるよう北朝鮮への影響力をより強く行使してもらいたいと期待している そうであるが、中国の北朝鮮に及ぼしうる影響力には限りがあり、とくに核兵器の開発は中国が不快視するであろうことは北朝鮮として承知の上で行ったことで はないか。つまり、核兵器は北朝鮮が中国の意見にもっとも同調したくない問題なのである。北朝鮮が核実験を行ったときの中国の反応を想起してもらいたい。

 北朝鮮の核兵器を巡る状況は、私にはこのように見える。主役が役割を果たそうとしないのであれば六者協議の再開に大きな期待を抱くことはできない。むしろ、そのことを交渉するのに貴重な時間がとられてしまうことを懸念している。