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「農山村地域振興についての京都府の取り組み」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2010.01.15
「農山村地域振興についての京都府の取り組み」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2009年12月1日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1. 京都府の農山村地域振興についての検討会に参加されているようですが、農山村地域の価値についてどのように認識していますか?
他の地域と異なり、この地域では、農業や林業が営まれており、また、豊かな自然に恵まれているという特徴があります。我が国は急峻な国土に多量の雨が降るという災害の起こりやすい自然条件となっています。農山村地域は、農業や林業の活動を通じて、洪水の防止、水資源の供給、大気の浄化等の機能を果たしています。水田でイネと麦の二毛作を行えば、光合成による酸素の生産量は熱帯雨林のそれに迫るといわれています。また、田園風景など美しい景観も提供しています。
そのなかで、特に、水について説明したいと思います。石油や鉱物資源が豊富なアラブ諸国やオーストラリアなどで十分に工業が発展しないのは、これらの国には水がないからです。日本は「水」というきわめて重要な資源をもつ「資源大国」なのです。日本の年間平均降水量は1700ミリで世界平均の2倍、世界第3位ですが、このままでは雨水は流れてしまうだけで利用はできません。この水を蓄えて供給してくれるのが「森林」と「水田」です。雨は山の木と土に蓄えられゆっくりと川へ流れ、また雨水や川水から水田に溜まった水もゆっくり下流へ流れます。この作用によって、水は蒸発することなく利用できることとなり、取水量は300ミリで世界平均の6倍、世界第1位となっています。急峻な地形にもかかわらず、大きな洪水を起こさないようにしているのも森林と水田の巨大な緑の「ダム」としての働きです。
同じ農業でも、アメリカなどでは、長年にわたって蓄えられた地下水を利用しているため、地下水資源の枯渇が心配されています。つまり、日本の水田農業は水を作り出す農業ですが、アメリカなどの畑作農業は水を枯渇させる農業だといってよいと思います。ただ、残念なことにそのような水田を水田として使わないようにしようとしているのが、政府が進めている減反政策です。
2. その農山村地域の現状はどうなっているのでしょうか?
限界集落という言葉を聞かれたことがあると思いますが、過疎化や高齢化が急速に進んでいます。このため、集落の中でも、人と人との結びつきや助け合いが希薄になって、話し合いもできないようなところが多くなっています。地域をまとめていくためには、リーダーが必要ですが、京都府の農山村地域ではリーダーが一人もいない集落が半数近くになっています。
UターンやIターンによって他の地域から定住する人を増やしたいのですが、雇用先がなく、十分な所得を得られないのでは、定住は望めません。また、農産物や木材の価格が低迷しているうえに、シカ、サルやイノシシなどの鳥獣被害が増え、農林業の収益が悪化しています。農山村地域は、病院や銀行など生活関連施設が集まる市街地から離れているので、交通手段が必要ですが、バスなどの公共交通が撤退していくと、高齢者や子供にとっては、大変不便になります。特に、市町村合併によって、行政が広域化したために、市長の関心が向かない農村部では行政サービスの空白地帯となっているところもあります。
3. では、京都府ではどのような取り組みをしようとしているのですか?
京都府では、来年度からおおむね5年程度集中的に支援することによって、50地域を目標に農山村地域の再生モデルを育成するとしています。その際には、農山村地域での雇用や所得機会の確保、生活交通手段の確保、医療、福祉の充実などの対策を講じることとしています。これ自体は、他の地域でも同じような施策を講じていると思います。
私が注目したいのは、京都府が地域の活性化の基礎となる人や組織の育成を基本に置いていることです。まず、祭りなどの伝統行事の復活や活性化などを通じて、地域での話し合いや地域の活動への参加を促し、地域のリーダーの育成を行うこととしています。さらに、市町村合併で行政と住民との間が広がってしまっているという空白を埋めるために、小学校の区域などの広い地域の集落が連携するという地域連携組織を作ったり、これを発展させて、雇用や所得機会の確保のための営利事業と生活環境整備のために公益的事業を同時に実施する地域コミュニティ法人を作ったりしてはどうかと提案しています。
具体的な課題の解決方法についても、自分たちの地域は自分たちで責任をもって再生・活性化していくことを基本としています。行政は地域住民が自ら提案して取り組む活動を支援するという位置づけです。あくまでも住民自治を基本に行政や大学、企業、NPOが参加する場を作り、そこで地域再生の具体案を考えて実行するという仕組みも検討されています。その際、いろいろな政策に精通した行政職員を「里の仕事人」として地域に常駐させて、地域の課題に対応した対策や事業を地域と共同して設計させたり、地域外との交流や新たな事業を起こすため、商品開発などに優れた民間人に「里の仕事人」として、地域連携組織や地域コミュニティ法人を支援させるという仕組みも検討されています。
京都府は、これを「さとぢから再生アクションプラン」と名付け、近く公表することとしています。このような取り組みが全国の農山村地域振興に取り組む人たちの参考となればよいと考えています。
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