メディア掲載  グローバルエコノミー  2010.01.15

「決定された農家への戸別所得補償政策」

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2009年12月29日放送原稿)
1.    来年度予算案が決定され、戸別所得補償政策の内容も確定されましたが、最終的にはどのようになったのでしょうか?
 来年度からコメについて、その翌年度から麦や大豆などについても実施するとしています。来年度予算は全体で5,618臆円です。内訳は、従来のコメの減反に参加する農家への補助金が2,167億円、減反に参加するほとんどすべてのコメ農家に生産費と農家販売価格の差を補償する戸別所得補償の部分が、3,371億円となっています。

2.    どのような仕組みになったのでしょうか?

 10アールという面積当たり1万5千円の単価についての計算の基礎は、コメ1俵、60キログラムあたりの生産費と農家販売価格です。これに10アール当たり何俵とれるかという収量をかけて出したのが、10アール当たりの単価です。コメ1俵あたりのほうがわかりやすいので、これで説明します。
 コメの生産費は、肥料や農薬、農業機械、地代などの経費に、サラリーマンでは所得に当たる労働費を足し上げたものです。これがおよそ1万4千円です。農家販売価格は1万2千円です。この差は2千円です。これは米価が上がっても下がっても払うので、政府は定額部分だと言っています。例えば、米価が4千円上がって1万4千円の生産費を上回る1万6千円となっても、この定額部分の2千円は支払われるということです。このとき農家の手取りは1俵あたり1万8千円となります。
 逆に、例えば、米価が予定された販売価格を3千円下がって9千円となった場合には、定額部分に加えて、米価が下がった分の3千円を交付します。この米価低下の補填を政府は変動部分だといっています。つまり米価がいくら下がっても、1万4千円の生産費は定額部分と変動部分で保証されるということです。米価が上がっても、定額部分は減額されないので、農家は現在の販売価格1万2千円を上回る1万4千円以上の米価が常に保証されることになります。予算額では、定額部分1,980億円、変動部分1,391億円です。

3.    どのような効果を持つことになるのでしょうか?
 まず、減反の強化です。減反に参加した農家にだけ、戸別所得補償が支払われます。従来の減反補助金はそのままで、減反に参加した農家に、さらに、コメについても戸別所得補償が支払われるので、減反すれば、以前よりも所得は増えます。従来減反は、減反補助金というアメと、参加しない農家には融資や他の補助金のカットという強制的な手段、つまりムチで担保されてきました。今後はムチはなくなりますが、減反参加を条件とした戸別所得補償が追加されるので、二重のアメが用意されたことになり、減反は経済的にはますます強化されます。減反による高米価維持という消費者負担政策に納税者負担が加わりますから、国民の負担はますます高くなってしまいます。もし、米価が維持されるのであれば、先ほどの変動部分1,391億円は国庫に返還されます。

4.    農業の将来はどうでしょうか?
 現在の米価を上回る価格水準が保証されるので、コストの高い零細な兼業農家も農業を続けてしまいます。主業農家に農地は集まらず構造改革効果は望めません。それどころか、農地を貸して地代をもらうよりも、米を作るほうが儲かるようになるので、今まで主業農家に貸していた農地を零細兼業農家が貸しはがす状況が出てきています。貸しはがしによって規模が小さくならなければ、農水省が主張するように規模が大きい農家ほど所得が増えるのは事実です。これは高米価政策をとった食管制度の時代にも農水省によって主張されました。しかし、零細な農家が農地を出してこないのですから、農水省が主張するような、規模拡大、構造改革効果は望めません。これも食管制度の時と同じです。というより制度自体食管制度の復活という効果を持っています。   
 コメ農業はますます零細になり、生産費が上がってしまいます。減反をしても米価は10年間で25%も低下しました。上がる生産費と下がる米価の差を戸別所得補償で支払うこととしているので、必要額は増えます。生産費が1割増加し、米価が1割低下すれば、新たに2,600億円程度支出が増加します。
 構造改革については、民主党はマニフェストで主業農家に規模拡大の加算をするといっていましたが、これは見送られています。マニフェスト違反です。

5.    WTO(世界貿易機関)では、この補助金は出しても良いのでしょうか?

 戸別所得補償政策(の固定部分)については、生産制限を条件にしている面積あたりの直接支払い(農業協定の分類では青の政策)なので、現在ではいくらでも出せることになっています。ただし、今回の交渉でほとんど合意している農業交渉議長案では、この政策(変動部分も青の政策となる)について、日本に認められる上限は、650億円です。3,371億円も出せないのです。したがって、WTO交渉が合意されれば、戸別所得補償政策は直ちに抜本的な見直しが必要となります。
 減反が強化されるので、食料安全保障に不可欠な農地資源は減少します。零細な兼業農家が農業を続けるので、主業農家の規模が拡大しないばかりか、規模が縮小します。規模拡大加算を導入しなかったマニフェスト違反を含めて、農業の構造改革に逆行します。また、いずれ財政的にも破綻するし、WTO協定にも違反します。本来このような政策こそ事業仕分けの対象にすべきだと思いますが、そうならないにしても、国民の間で事業の是非が議論されるべきだと思います。