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「政治は変わるのか」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2009.10.16
「政治は変わるのか」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2009年10月6日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1.長年農林水産省で勤務した経験がおありのことから、今回の政権交代の意義について、聞きたいのですが、その前にこれまでの日本の経済政策はどの様なものだったのでしょうか?
これまでの日本の経済政策の特徴は、池田内閣の所得倍増計画に見られるように、経済成長を行って、それを国民すべてに行き渡らせようとすることでした。所得倍増計画は10年間で国民所得を2倍にするというだけではなく、成長を通じて、大企業と中小企業の賃金格差、農業と工業の間の所得格差や、地域の間の所得格差を是正しようとするものでした。つまり、成長と分配の政治です。
1960年代、食糧管理制度の下で、政府は生産者米価を大きく引き上げました。これによって、米は過剰になり、40年間も減反政策を続けている結果、食料安全保障に必要な農地はどんどんなくなっていきました。また、零細な兼業農家が農業を継続してしまい、農業だけで生計を立てようとする主業農家といわれる人の規模は拡大しないのでコストは下がらず、所得も上がりませんでした。これは食料・農業政策としては失敗でした。しかし、農家所得を向上させ、農業と工業との所得の差を是正する面では効果がありました。兼業化も進んだので、65年から、農家所得は勤労者世帯の所得を上回るようになります。
中国では農村部の一人当たり所得と都市部の一人当たり所得が1:3.5まで拡大し、更に拡大しようとしてきていています。これが3農問題といわれ、中国の内政上の最大の問題となっています。
しかし、日本では、農工間の所得格差の是正は上手く行きました。高度成長時代、都市部と農村部で、テレビ、洗濯機、冷蔵庫という3種の神器の普及率にほとんど差はありません。自動車の普及率はむしろ都市部より農村部の方が高くなっていました。高米価政策などによる農村部の強い消費需要も電気産業や自動車産業の成長を支えたといえます。つまり分配が成長を支えたのです。
2.前回のいわゆる郵政総選挙では、改革なければ成長なしという構造改革路線が勝利したようですが?
自民党の分配型政治には成長が実現するという前提がありました。失われた10年という言葉があるように経済がなかなか成長しないという閉塞感が出てきた中で、分配がうまくいかなくなってきました。このため、分配から成長を重視しようと主張して自民党が勝利したのが、前回の郵政総選挙ではなかったのかと思います。
経済のパイを分け合おうというのが、伝統的な自民党政治でした。これに対し、民主党はどちらかというと構造改革的な主張を行っていました。2大政党制では、二つの政党の立場の中間にあるところから、相手側の得意とするところ、主義主張をより多く取り込んだ方が勝利します。郵政総選挙では、自民党が民主党の構造改革的な主張を取り込んだのです。
しかし、規制緩和も進み、経済活動は自由になったのだが、分配がうまく行われないため、格差が拡大したのではないかと国民は感じるようになりました。そこで、今度は民主党が子供手当てとか農家への所得補償などと言う自民党の分配的なところを取り込んで勝利したのが、今回の選挙だと思います。
3.それでは、民主党政治はかつての分配型の自民党政治と同じなのでしょうか?
政治的な手段として一つの大きな違いがあります。伝統的な自民党政治では政・官・業のトライアングルという言葉があるように、業界団体を通じて分配が行われてきました。土建会社への公共事業を通じてその従業員の雇用や所得を確保しましたし、農業では団体への補助金を通じて農家の所得を確保しようとしました。つまり、間接的な支援が行われてきたといえます。業界団体は票のとりまとめで自民党にお返ししました。こうして、いわゆる政・官・業の癒着も生まれてきました。今回は、農家への戸別所得補償に見られるように、間接的な支援から直接的な支援に切り替えられようとしています。
農家からすれば、米価維持だろうが、米価低下分の戸別所得補償(直接支払い)での補填だろうが、所得さえ保証されれば良いのですが、米価によって手数料収入が左右される農協は米価の低下によって影響を受けます。民主党の直接支援という政治手段は政・官・業のトライアングルを変更することになります。政治の景色が変わるのです。
4.このシステムはうまく機能するのでしょうか?
一つ大きな問題があります。今までは、業界団体や会社に金を流せば、その後は団体が農家や従業員への分配作業をやってくれました。しかし、直接的な支援に切り変えようとすると、行政が個々の農家や家計に直接配分しなければならなくなります。これに膨大な行政コストが必要となる可能性があります。特に、農業では戸別所得補償の対象は零細な農家が多数を占めることになるので、大変な作業と費用がかかります。このため以前のように農協を通じて配分するようだと、また政・官・業のトライアングルが復活します。この政策手段の転換という実験がうまくいくのか注視していく必要があります。
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