コラム  外交・安全保障  2009.07.15

オバマ核軍縮-非核国への核不使用から

2009年6月4日朝日新聞に掲載(承認番号:18-3917)

 オバマ米大統領はさる4月、プラハにおける演説で核兵器のない世界の実現を目指していくと明言した。かねて示していた軍縮に積極的な姿勢を米政府の新方針として正式に打ち出した素晴らしい演説だが、首をかしげざるをえないところもある。

 第一は、クリントン政権末期の2000年に、核兵器の廃絶が核保有国の「明確な約束」だと米国も同意していたこととの比較である。核不拡散条約(NPT)が発効して以来30年間、核兵器国の態度は不明確だったので、この合意はきわめて重要なものだったが、一般にはよく知られていない。ブッシュ前政権がこの重要合意を確認するのを拒むようになり、合意の上には厚い氷が張ってしまっていたからである。

 オバマ大統領は氷を解かすことができるか。つまり、この重要合意を確認できるか。また、大統領の演説はこの「明確な約束」よりも内容が濃いものだったか。いずれもプラハ演説でははっきりせず、今後を見守っていかなければならない。

 第二に、北朝鮮はプラハ演説と同じ日、テポドン・ミサイルをまた発射し、5月25日には核実験を再度強行した。相変わらずの暴挙だが、北朝鮮なりの事情もあれば、考えもある。とくに北朝鮮は米国からの核攻撃を恐れているが、米国は歴代政権の一貫した方針として核兵器を使う可能性をいつも残している。北朝鮮はこの安全保障上の問題がある限り核兵器を放棄しないだろう。

 90年代の米朝枠組み合意でも、また6者協議でもこの問題は取り上げられたが、米国は不完全な対応しかしなかった。これに対し、北朝鮮は安全保障を確保する必要から核開発するという態度をとってきた。北朝鮮の核問題を解決するには、査察の強化もさることながら、米国が北朝鮮に対し、「核兵器を保有し続ける限り核攻撃する可能性は保持する。北朝鮮が核兵器を放棄すれば攻撃しないことを明確に約束する」という論理で迫っていくべきだ。

 このように交渉するには、米国が政策変更し、核兵器を持たない国には核攻撃しないこととしなければならないだろう。核兵器は原則として国際法上違法というのが国際司法裁判所の「勧告的」意見で、さらに、核兵器を持つことをNPTによって禁じられている国を核兵器で攻撃することは非道徳的である。米国の政策変更は可能だし、それはまた、米国の利益にかなうと考える。

 オバマ演説は核兵器の使用問題に何も触れていない。核兵器の廃絶と不使用は過去40年近く議論され、いまだに解決していない二大難問だが、より困難なのは廃絶だ。廃絶が横綱であれば不使用は大関である。オバマ大統領は横綱を倒すと宣言して喝采を浴びたが、大関と取り組むことなく、北朝鮮の核問題を解決することはできないだろう。

オバマ核軍縮-非核国への核不使用からPDF: 11.0KB


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