コラム  外交・安全保障  2009.06.01

「PAC道場」活動報告(1)

 実質わずか3週間ほどの短い公募期間にもかかわらず、我らがPAC道場には11人もの逞しい男女が集まってくれました。PACに応募された皆さんには心から御礼申し上げます。当道場のルールで、彼らの個人名には言及できませんが、20代から40代まで、それぞれの得意手は異なるものの、いずれも国の将来を思う気持ちでは誰にも負けない強者達だと思っています。

 PAC道場のような前例も実績もないフォーラムに口コミで応募するだけでも相当の勇気があると思いますが、実はこれから彼らPACたちが克服すべき課題は山ほどあります。第二回目のコラムとなる今回は、彼らが直面する日本政治の現実について、私なりの考え方をご説明しましょう。

 今も政界やメディアでは「政治主導」や「公務員改革」の議論が盛んに行われていますが、どうも本質を見失った議論が少なくないような気がします。官僚の作業を代替するのが「政治主導」だとか、官僚バッシングが「政治コントロール」とでも言わんばかりの発言には正直閉口します。これでは、官僚組織のモラルハザードを深刻化させ、結果的に日本全体の統治能力を低下させるだけでしょう。

 PACの皆さんにはこの閉塞状況を打開する突破口のひとつになってほしいと思います。こういう時代だからこそ、PACには、従来のしがらみに囚われず、しっかりと国益を見据えて、国民のために政策立案・実施を担う矜持が求められています。

 問題はこうした理想を実現する上で、現実がそれほど寛容ではないことでしょう。私自身の経験から申し上げれば、政策を決定する際に、まず理解しておくべきことがいくつかあります。

1、政策の立案とは体力仕事である
政策の企画立案は、その美しい語感とは程遠い、3K(きつい、厳しい、汚い)仕事だ。若手ならば、一日十数時間の勤務のうち、純粋な知的作業ができるのは夜中の数時間だけだろう。他の案件で忙しくなれば、2-3日徹夜が続くことも珍しくない。勿論風呂にも入れない。行政府での政策立案は、図書館での論文書きとは違うのだ。
2、政策の実施にはもっと時間がかかる
政策作りそのものよりも、その後の関係省庁への根回し、与野党各部会用の説明資料や国会答弁作成作業の方がはるかに時間がかかる。数ある民主国家の議会の中でも、日本の国会ほど行政府の役人の時間と体力を浪費する組織は恐らくないだろう。国会答弁作りのため一般官僚に週末待機を強いる立法府など他にあまり聞いたことがない。
3、普通の政治家は政策の詳細に関心がない
一部のマニアックな議員を除けば、大半の政治家は国会対策、政局などに与える政治的影響の方により大きな関心がある。それが普通であり、また当然のことなのだが、最近では肝心の政治判断をせずに、細かい行政判断ばかりしたがる政治家が増えてきたので要注意だ。
4、最近の政治家は役人を守らない
最近は、役人から十分説明を受けていても、世論調査の数字が低くなると、態度を豹変する政治家が増えたような気がする。昔の政治家は共同作業した役人を守ってくれたものだが、今はそれもあまり聞かなくなった。官僚バッシングの方が政治的得点になるからだろうか。
5、当然、役人も政治家を信用しない
役人も人の子である。自分を守ってくれない政治家のために身を粉にして働く気にならないのも当然だろう。かくして、政治と行政には昔とは異なる種類の緊張関係が生じつつある。まともな役人はやる気を失い、辞職していく。これでは「政治のコントロール」ではなく、「行政の劣化」が進むだけだ。
6、部下はロボットのようには働かない
行政は個人プレーではなく、組織による長期的作業である。部下も人間であり、一日最低数時間は寝かさないと数日で壊れる。政策の立案・実行もチームプレーを考えないと長くは持たない。上司の命令として徹夜を強いることは可能だが、その結果責任はその上司が負うべきである。

 以上は日本の行政組織の中で政策決定する上で最低限の常識でしょう。政治任用官だからといって、これらを無視して良い訳はありません。それどころか、政治任命で日本の局長や次官になるとすれば、上記のような3Kの仕事を一般官僚と文字通り一緒になってやる必要があります。

 PACの皆さんには是非ともこのような覚悟を持って、PAC道場での研鑽に励んでいただきたいと思っています。