コラム  2020.05.15

新型ウイルスとの戦い

岡本 行夫

岡本 行夫氏は、2020年4月24日に永眠されました(享年74歳)。

ご逝去に謹んで哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りいたします。


 コロナウイルス関連の原稿は、書くそばから直さないといけない。悪化のペースがあまりにも速いからだ。特に激変しているのが、アメリカだ。影響を軽視していたトランプ大統領も、さすがに4月1日には、アメリカでの死者は10万人を超えるだろうと言い始めた。もっとも、「社会隔離」政策が奏功してきて、そこまでは悪くならないらしい。

 市場も危機的だ。2月12日に3万ドル近い史上最高値をつけたNYダウは、わずか数日後にはフリーフォール状態で崖から落下した。過去の危機の時のようなV字回復は難しいだろう。トランプ時代の株価は、大減税や、FRBを押さえつけての低金利政策など、いわば興奮剤を打たれて上昇した。試みに、リーマンショックからトランプ大統領就任までの期間の株価上昇ペースをそのまま延長すれば、ダウが3万ドルに達するのは、僕の計算では2022年12月末、つまり今から3年後のはずだった。興奮剤に頼らない潜在成長率に従った成長が本来の姿と考えれば、今後、3年くらいかけての回復ということになる。

 しかし、株価というのは、所詮は金持ちたちが将来の株の収益をどう見るかという予測に過ぎない。実体経済はもっと深刻かもしれない。アメリカでは失業率について様々な推計が出ているが、比較的中間的な予測値は、第2Qのうちに17%~20%というもので、そうなれば、比較すべき数字は1929年大恐慌の時の25%近くになってしまう。

 しかし、アメリカという国の、危機への対応力は強い。今回も、大統領はダメでも、各州の知事や医療関係者、そして国民の行動は目覚ましい。

 7年前、僕がボストンマラソンを見ていたとき、すぐそばで爆弾が炸裂し、多数の死傷者が出た。10分後には付近の道路はすべて閉鎖され、何千人という警察官と州兵が動員された。後続のランナーたちは、そのまま病院まで走っていって、献血した。祝賀ムードが一瞬にして危機管理モードに転換するスピードは、さすがいつも戦争をしている国だなあと思った。

 中国はどうか?彼らが当初に情報を隠し込んだ責任は、重大だ。しかし、その後の対応はすごい。都市封鎖の是非はさておき、政府は武漢に二つの大きな病院を10日間で建設し、多くのプラットフォーム企業がビッグデータを活用して感染拡大阻止のためのオンラインアプリを開発し、市民に提供した。

 日本はどうか?(執筆時点では、)他の先進国と比較して感染者が極めて少ない。日本が世界で最も厳しい感染封じ込め措置を取っているか、検査人数が少ないから感染者が表に出ないか、そのどちらかだ。前者であることを祈ろう。

 世界経済への被害規模は甚大だが、あくまでもウイルスという外傷性のものだ。経済は必ず回復する。アメリカの失業率も、「レイオフ」ではなく「一時待機(furlough)」と表現される。

 日本は王道の対策で行くしかない。当CIGSは、3月24日に経済対策について緊急提言を行った。世界に冠たる日本人の辛抱強い国民性が、難局を切り開いてくれるだろう。


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