コラム  2024.01.26

若者の転職

福井 俊彦

我が国の人口動態をみると、「生産年齢人口は1995年にピークアウトし2070年にはピーク比二分の一に、総人口は2010年にピークアウトし2070年にはピーク比三分の二に、それぞれ減少する」と予測されている。

その所為か今既に随所で「人手不足」の声が聞かれるようになっている。のみならず、多くの企業や官庁において「若者の転職」が目立つに到っている。

転職の動機は何か。単に「より良い雇用条件を求めて」ではなくて、「自分が将来へ向けて何をしたいかを再確認し、その最適の場を求めて」であって欲しい。そうであれば、この国に於いて新しいinnovationが進む出発点を見出す切っ掛けとなることが期待されよう。

何人かの若者が飛び去った後の企業や官庁の対応の仕方も重要である。今回は、中途採用を増やしてそれで済むという程単純な問題ではあるまい。先ずは、それぞれにbusiness processを変革してより創造的な仕事の場を増やすようbusiness modelをリフォームする。その上で新しい課題に挑戦する若者を中途採用するという手順を踏むことが求められているのではないか。

振り返ってみると、我が国の経済は戦後の高度成長期がピークに達した1980年代央以降今日まで長期停滞を余儀なくされている。高度成長期には我が国企業の投資意欲は旺盛であり、技術革新も目覚ましく進んだ。「欧米先進諸国に追い着け、追い越せ」という掛け声の下多くの企業が快走した。目標がはっきりしているだけに根はtextbook approachであったが、我が国の企業の場合textbook通りでは飽き足らず改良型の技術革新を絶えず推し進めたことも特徴であった。ただ長年に亘り先頭ランナーの背を見て走っていると、いつの間にか自ら先頭を切って走る、つまりcutting edgeの技術革新をするmentalityが置き去りになってしまう。高度成長達成後の長期停滞の根因はそういうところにも見出せるのではないかと思われる。

長期停滞の中にあっても現状に満足して来た我々を見て、人口動態の変化がここで我々に一体何を促そうとしているのか。総人口が減っても、生産年齢人口が減っても、「今こそ自信をもって先頭を走れ」ということではないか。

そもそも職場とは、初めから若者にとって「安定した居心地の良い場」ではなく、「将来の夢を追いつつ自己実現を遂げる場」ではないのか。更に付け加えれば、既存の職場とは無関係に、自らstageを設けて新しい事業をstart upする若者が続出する、世の中の人々はこうした若者を力強くback upする。そうなってこそ我が国は本格的に先頭を走る国となろう。「出る杭は打たれる」でなく「出る杭を後押しせよ」である。


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