コラム 2018.01.09
「親方日の丸」は、公的機関の指導者の無責任振りを揶揄した言葉だが、普通の日本人の心の奥底にも、「国は壊れない、限りなく頼れる」という思いが潜んでいるように感じられる。他国に侵略されて国家が転覆した経験を持たない日本の歴史と深く絡む問題であろう。確かに太平洋戦争には敗れたが、この時も、米国の占領政策との衝突を避けて何とか国体を維持した。のみならず、戦後、PAX Americanaを背景に平和と繁栄を築くのに成功したことから、いつしか「日本国頼み」の上に「米国頼み」の心情も加わって来た。
ところが今や、米国は、世界秩序を保つ上で大きな責任を担うとか、経済的に他国から余りに依存されることを避けるようになって来ている。米国の姿勢変化とは別に、経済の面では「第四次産業革命」に象徴される通り、多くの国が欧米諸国をひたすら追っ駆ける時代は過ぎ、世界中の人々が横一線で新しい価値の創出を競う時代となっている。
日本は、社会秩序の面でも経済の面でも他国比なお恵まれた面が多い。民族対立はないし、宗教対立もない。経済もとくに見劣りする状況ではなく、所得不均衡も左程大きくはなっていない。「治安良く」、「居心地良い」状況にある。でもこれに慣れて、①人々は、新しいことには取り敢えず様子見の姿勢を取り、リスクに向かって率先して挑戦しようとはしない、②有り余る貯蓄を抱えていてもリスクマネーへ転化しようとはしない、③親方に頼り過ぎて、財政の持続可能性が危うくなっているにも拘わらず、人々はこれを看過している。
将来へ向けて、「日の丸」に何が期待されているか。
第一に、世界の安全保障の面では、米、欧に加え、それと並ぶ経済的な比重を持つに到った東アジアにも視線が移り、要衝を三本柱で固めることが期待されよう。東アジアの中核は申すまでもなく日・中・韓の三国であるが、歴史問題を初め相互に解きほぐし難い困難な問題を抱えているとは申せ、「日の丸」のはためきに乗って世界全体への責任意識が伝わるよう、我々としては努めて行くべきであろう。第二に、経済面では、イノベーション競争において、「日の丸」は常にリード役を果たすことが求められる。戦後の高度成長期にも日本はイノベーションを得意技としていたが、これからは欧米諸国を後追いしながらでなく、先頭集団の中で得意技を発揮しなければならない。既存の大企業の中からのイノベーションだけでは不十分であり、よりオープンな知識交流が出発点となろう。このため教育の面でも、優等生教育でなく、自立心を涵養する方向へ大変革が求められよう。第三に、「日の丸」は激震の中を突き進んで行くわけであるので、揺さ振られても微動もしない程、強固な基盤の上に立っていなければならない。少子高齢化が進行する中でこれを成し遂げるためには、世代間の受益と負担の関係を絶えず見直しつつ、社会保障制度の改革を更に重ねるとともに、信頼のおける財政再建長期計画を早期に確立することが肝要である。
Quantum LeapとSustainability、この二つがKey Wordである。