コラム  2021.08.03

組織文化

林 良造

最近組織文化の根深さを考えさせられるケースが多い。公的・私的様々な組織で不祥事が繰り返され、毎回責任者が「原因を究明し再発防止に万全を期したい」というコメントで終わっている。

90年代にはあっという間に企業規律が劣化し、企業を崩壊させるケースが多発した。そのころ民間企業の再生に成功した通産省の後輩が、組織のモラールを再生するには、トップが心に響く行動原理を簡潔に表現し、あらゆる機会に発信し、長期間自らの行動でそれを示して続けていくことしかないと語っていた。その後の経験で、CEOの危機感と行動力は不可欠の出発点であるが、組織文化の改革をやり切るにはガバナンスの根本的改革が必要であることを痛感させられた。振り返ると90年代の会社法の改正以来、株式市場の評価が経営者の牽制に直結するような環境を作り、会計原則の明確化など企業情報の公開の質と量を向上させてきた。また、社外役員の導入・内部統制の重視・公益通報制度・会計監査法人の機能の強化などで、規律強化を支える仕掛けも充実してきた。

しかしながら現在起きている事象は、それでも残る企業文化の根深さを示している。企業文化には、創業時の価値観とその後の諸制度の総体が反映されている。そして歴史が長く大きな組織になると慣行や制度が積み上がり、その文化は末端まで入り込み強化されていく。したがってこれを変えるには、変えるべき文化の残滓を取り除いていく丁寧な作業が必要となる。そのためには長年の間にできたどのような行動が報われてきているかという暗黙の認識にまで分け入って変えなくてはならない。またこの作業は日々の成果が求められる緊急性の中でともすると置き去りにされていく。特に日本のように個人の組織への帰属意識が強く、固定的な長期的構成員の組織では、例えばライバル企業に勝つというような組織としての単純な目標が規律を押し流しやすい。

しかしこの問題は米国企業でもあらわれ方は異なっても存在する。ただ米国企業では、企業文化を変えるための種々の手法が工夫されている。特に、広く深みのあるサーベイにより、様々な使命を持った各部署の意識の深いところにまで入り込んで、改革が行動に結びつくレベルまで浸透しているかを分析する手法も深化している。必要とされているのはこれらを駆使し組織文化の改革をTop Priorityに据えて追及する強い意思と、すべての行為が最終的には公開されていくという共通認識である。

日本の政府機関の場合には輪をかけて難事業である。日本の統治機構は、長年の惰性の中で種々の権益にからめとられ硬直的になりがちな官僚機構と、粗野で荒っぽい政治主導のはざまで漂流を続け、着実に劣化が進んでいる。官僚機構は、議院内閣制の下で民意を反映する政治と対峙しつつCheck & Balanceの重要な役割を果たすべきにもかかわらず、それを託するに値する規律と文化を崩壊させてしまっている。官僚諸兄には今一度現場を見つめ、強烈な危機感と、倫理的で長期の国益を追求する行為が正当に評価されるという基本に立ち返り、民間の取り組みも参考に、情報公開や外部的監視など改革を支援する仕組みの構築に向かっての行動を期待したい。


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