コラム 2019.08.05
毎年5月は、世界から集まるBosch のInternational Advisory Boardを家内ともども楽しみにしている。
今年は、ドナウ河畔の新緑に映えるブダペストの宮殿を背景にした設営で、とりわけ印象的であった。
内容的にもいつも新鮮な驚きがある。今年は米中間の緊張とAIの将来をテーマに活発な議論が行われたが、やはり欧州目線とアジア目線の違いが印象的であった。
米中関係については、珍しく切迫した印象を与える香港からの米系中国人の発表と、相変わらず臨場感の薄い欧州のコメントが対照的であった。他方欧州からは、欧州選挙後秋に向かって進む欧州主要人事の難しさや、欧州経済の混乱から世界的な景気後退に進む可能性について、今までとは違う危機感を強調する声が多かった。
今更の感はあるが、今回改めてドイツ企業文化について考えさせられた。
ドイツという国はある面日本と酷似している。製造業が主体の経済でGDPでも世界3位と4位、人口が1.2 億と0.8 億であるがともに急速な人口減少傾向にある。企業数も350万企業(うち99.7%が中小企業)とほぼ同じであり、強い銀行と発達が遅れた資本市場、長期雇用と従業員を中核とする経営なども、よく似た側面である。
他方際立った違いとして、利益率の大きさと輸出依存度の高さがある。そしてその背景には、"ミッテルシュタンド"と呼ばれる地域に根付いた中堅・中小企業群がある。その多くは株式会社形態をとらず、ファミリー企業性を色濃く残し、"隠れたチャンピオン" と称される各分野で圧倒的なシェアを誇る企業を生み出しており、Boschはその代表選手とされている。
Boschは1886年に米国から帰った電気工事職人が二人で始めた発動機向け点火装置の製造が出発点であるが、今や世界で40万人の従業員と10兆円の売り上げを誇っている。その間、銀行の影響力を排除し、従業員を大切にしてLayoffをしない哲学など創業の理念を守り、企業の家族所有形態を維持しつつ配当と議決権の分離を敢行し、有限会社でありながら二層式の取締役会構成を持ち、資本と労働の共同決定法に基づく企業統治を行っている。そして、CEOは10年間勤めその後も10年間は上部機関に当たる"Supervisory Board"の議長、国際諮問委員会の議長につく。
ドイツの企業統治は、90年代の東西ドイツ統合による長期の経済的落ち込み、2008年のリーマンショックなどから、会社法改正など透明性確保や資本市場改革の洗礼を浴びたものの、Bosch自身はこの形を堅持している。
企業統治と合わせて、ミッテルシュタンドの大きな特色となっているのが、州の集合体であるドイツの歴史を反映して地域に根付いた存在になっていること、そして各州の政府、研究機関や教育機関との深い連携である。これらが創業の理念が色濃く残るファミリー事業形態と、大企業の系列に属するよりも独自の販路顧客との関係を築くことを大事にする自律的な経営哲学につながっている。
最近では日本でも、系列に飲み込まれず独自の強みを軸に自ら顧客のニーズを開拓し成功するところも出てきているようだが、大きな流れを形成するまでにはなっていない。他方ドイツでは、このような気質を持った企業が文化の中核を形成していることが、日本企業と比べて際立った収益性、海外市場での存在感を生み出しているものと思われる。