コラム 2025.03.06
コロナ禍や気候変動の余波もあって政治経済や治安が悪化し、近い将来回復が見込めない国・地域から脱出を試みる者が続出する一方で、目的地の欧米諸国では移民受入れの費用分担などで対立が生じ、国民も労働市場への影響や治安、異なる文化との交わりに不安感を強めた。「反移民」を掲げる政党に支持が集まり、不法移民に厳しいトランプ氏の大統領返り咲きを後押しした。
もっとも移民受け入れ国が流入を完全に止めたり、米国で1100万人ともいわれる不法移民の多くを排除するわけにはいかない。労働者として、また納税者・消費者として無視出来ない存在だからだ。英国では東欧からの移民増がEU離脱を促す要因となったが、離脱後東欧からの移民は減ったものの、アジアやアフリカからの移民がそれ以上に増えている。
移民を巡る議論で気になるのは、労働者・生活者として及ぼす様々な影響のデータに基づく分析なしに、一部分のみをとりあげ、感情にまかせた議論が多いことだ。入国審査に時間がかかり大量の「不法移民」が市民の生活空間にあふれ出て、生活環境を実際に悪化させたこと、また真偽は別として移民犯罪のSNSを通じた拡散なども反移民感情を強めた可能性がある。
日本は現在、外国生まれの人口比率は2%台半ばで、米国の14%台半ば、OECD平均の11%に比べてはるかに低く、このような「反移民」の流れからは距離を置くことができている。労働力不足が喫緊の課題であるため、外国人労働のプラス面にスポットが当たっていることもある。実際、産業界からの圧力は強く、政府は一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を積極的に受け入れるため特定技能制度を創設するなどで、受け入れる業界の範囲や受入れ見込み数を拡大している。
他方、特定技能制度導入で家族帯同や永住の壁も低くなったので、長期在留に伴う様々な課題にも取り組むことが重要となり、政府は「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」も決めた。ただ、政府は移民政策をとっておらず、生活に関わる様々な課題解決へ向けた動きは鈍い。総合的対応策では優先度は示されずに200を超える施策が担当省庁とともに列記されており、法務省は司令塔的機能を発揮できていない。
今後日本の外国生まれの人口比率の上昇が想定されるもとで、日本でも「反移民」の声が高まらないためにも、政府は外国人労働者を受入れる際に、産業界の声に引っ張られ過ぎず、基本方針に従い、国民のコンセンサスを重視し、国民の声を積極的に聴取することが必要だ。ただ、それをどうやって実行するのかは難しい。いえるのは、政府が共有すべきなのは有識者の意見ではなく、外国人労働者と生活空間を共有する一般国民の声だ。そのためには一般国民が自発的に外国人との交流を活発化させることが望まれるが、それには外国人の日本語習得が必須だし、生活にかかわる情報も必要だ。政府には総合的対策のうち、日本語教育とデジタル化の促進に早急に取りかかってほしい。デジタル化は多くの外国人が押しかけてきたときの対応をより円滑にするのにも役立とう。