コラム 2024.09.06
毎年開催されるG20サミットは、金融危機発生後の2008年11月に、世界経済の成長の回復と金融システム改革を協力して行うために初めて開催された。翌年9月のG20サミットで、これを「国際経済協調の第一のフォーラム」と位置づけ定例化し、各国及び地域の財政、金融、貿易及び構造政策が全体でみて、より持続可能でかつ均衡のとれた成長と整合的となるよう協働するための枠組みを立ち上げた。
10年のG20サミットでは、この枠組みのもとでの第一段階の評価に基づき、財政政策について先進国は、赤字半減と政府債務の対GDP比率を安定化または低下させる期限を付した財政計画にコミットした。「健全な財政は、回復を維持し、新たなショックに対応する柔軟性を提供し、人口の高齢化という課題に対応する能力を確保し、並びに将来の世代に赤字及び債務という遺産を残すことを回避するために必要不可欠」だからだ。
政策の実効性を高めるには、政策にコミットするだけでなく、実行し、評価し、説明することが重要だ。12年のG20サミットでは、日本は財政政策について、21年度以降政府債務の対GDP比率を低下させるとの長期目標に到達するためにはさらなる行動が必要で、野心的な中期財政計画を完全に実施することが必要だとされた。
このような評価を受けて、13年のG20サミットでは安倍晋三首相が「中期財政計画」を説明し、首脳宣言には「先進国のすべてが信頼に足る意欲的な各国個別の中期的な財政戦略を策定」と記された。財政テンプレートには赤字半減に必要な17兆円の具体的な削減方法や、歳入・歳出改革について説明があり、それゆえ財政健全化計画が信頼に足ると評価されたのだろう。
なお、15年のG20サミットでは財政再建は重要でないコミットメントに位置づけられ、その後財政再建についての個別の評価はみられなくなった。その背景には、同年の「国連持続可能な開発サミット」で「2030アジェンダ」が採択され、首脳たちの関心がマクロ経済よりも開発へ向かうことになったことがある。
最近のG20サミットのセッション名には気候変動、保健、食糧・エネルギー安全保障などが並び、ここ2年、国際経済の文字はない。G20サミットの正式名が「金融・世界経済に関する首脳会合」なのにだ。G20サミットはこれら課題の重要な議論の場となっており、活発な議論を望むが、解決には巨額な資金がいる。しかしパンデミックで歳出が増え、世界の公債の対GDP比率は以前よりも高いままだ。かつての低金利には戻れそうもなく、成長率は低下傾向にある。歳出増の要因は多いのに増税は難しく、財政規律は弛緩したままでは財政バッファーの構築も困難だ。世界の公的債務の先行き、特に米中について懸念を隠せない。
G20サミットは当初の協働姿勢を取り戻し、中長期的な財政健全化計画にコミットし、実行・相互評価・説明する枠組みを再構築し、財政健全化プロセスの議論をG20サミットで再開する必要がある。今度は財政の目標へのコミットが必要なのは先進国だけでなく新興国もだ。