メディア掲載  2024.06.04

【数字は語る】円安は本当に過度なのか?長期的な円安化を防ぐ、国際競争力の向上が重要だ

週刊ダイヤモンド(2024年6月3日発行)に掲載
須田 美矢子

4月末の実質実効為替レートの過去20年の平均に対する減価率


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4月末の実質実効為替レートの過去20年の平均に対する減価率 *実質実効為替レートは対象国通貨との交換レート(表示方法は例えば1円=xドル)に自国物価/対象国物価を乗じて実質化し、加重平均したもの(基準時点=100) 出所:BIS real effective exchange rate(broad basket),monthly.

実質実効為替レートで見た円の価値は、ここ数年で大きく低下した。円安は過度だと見なされ、市場の為替介入への関心が高まった。

実質実効為替レートは、円と他通貨の為替レートを実質化し、加重平均して求められる。ただ、過度の程度を測るのは簡単ではない。例えば米財務省に倣って20年間の平均と比較すると、4月末の円の価値は34.1%も低い。

しかし、これを過度な円安と見なすのは早計だ。日本企業の国際競争力の低下は顕著で、貯蓄・投資ギャップに見合う経常収支を実現させるには、より円安が必要で、均衡実質実効為替レートも円安方向に移動したはずだからだ。この場合、基準とすべき足元の均衡実質実効為替レートは長期的な平均値よりも円安なので、過去の平均値を基準にすると、過度の程度を大きく捉え過ぎてしまう。

なお、IMF(国際通貨基金)は、この円安を過度だとは見ていない。IMFの評価の基準は経常収支と実質実効為替レートのあるべき値(ノルム)であり、ノルムの近傍にある場合に「対外ポジションはファンダメンタルズおよび望ましい政策が示唆する水準と概ね一致」とするが、日本は17年から23年までずっとこの評価だ。

4月のG20財務相・中央銀行総裁会議でも、為替はテーマになっていない。多くの国が、米ドルを含め為替レートの動きを過度だと見ていなかったことが示唆される。

もっとも、IMF協定第4条に基づく日本との協議では、日本側が「今年初めからの円安の背景に投機的な取引があり、経済に悪影響を及ぼし得るので過度な変動は望ましくない」と強調している。このような場合には為替介入は容認されるだろうが、「過度」の評価は難しく、民間の取引が膨大である下では介入の効果は長続きしない。為替レートがファンダメンタルズから乖離しても市場の自律反発力に任せる方がよい。

今後も実質実効為替レートは内外の金融政策とそれを巡る思惑で振れ、反転もあろう。しかし長期的な円安化を抑えるには、企業が国際競争力を高めていくことが何よりも重要だ。


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