コラム  2024.03.06

時間の有効活用と無償労働

須田 美矢子

かけた時間に対して得られた効果・満足度を表す「タイパ」―タイム・パフォーマンスーが注目を浴びたのは2022年。その年の新語大賞やヒット商品番付の横綱にも選ばれた。その後も「タイパ」への関心は高く、料理・掃除・洗濯などの時短商品が次々と出てきている。ネット決済やEコマースも普通となった。

政府による働き方改革などを背景に、企業はリモートワークの推進や会議のスリム化、デジタル業務改革などに取り組んでおり、仕事における「タイパ」の改善も続く。

各人には一日に24時間という時間制約があるので、仕事などの有償労働時間と家事・買物・育児・介護などの無償労働時間を加えた総労働時間(生活時間)を「タイパ」重視で節約できれば、自由に使える時間が増え、満足度を高められる。

OECDの国際比較によると、2016年の日本女性の総労働時間は、比較国の男女の中で最も長く、日本男性も男性の中で一番長い。日本は男女ともに「時間的にはすでに限界まで『労働』している」とのコメントもみられる(男女共同参画局)。また、総労働時間の内訳をみると、欧米対比で、日本男性の無償労働時間の短さが際立っている。

労働時間の推移を「2021年社会生活基本調査」で確認すると、男性は有償労働、女性は無償労働の時間短縮によって、男女とも16年よりも総労働時間が減り、休養・くつろぎの時間、次いで睡眠時間が増えている。これらの変化はワーク・ライフ・バランスを改善し、生活満足度を高めると考えられるが、「生活満足度」については高まっていないとの調査結果がある(満足度・生活の質に関する調査)。プラス効果を相殺する要因の一つにあげられているのが「生活の楽しさ・面白さ」の減少だ。自粛生活の影響もあるが、最近の世論調査によると生活における時間のゆとりが減っているとの回答が増えており、その影響も考えられる。生活時間において「タイパ」を意識しすぎなのかもしれない。

日本男性の無償労働時間の短さについては、ジェンダー・ギャップや少子化対策を論じる際にも注目されてきたが、21年までの男性の無償労働時間の増加は僅かで、改善の歩みはのろい。未就学児がいる場合を除いて、仕事時間は減ったのでその時間を育児に使う、というようなことは行われていない。政府は、「仕事と家庭の両立」のため、男性の無償労働時間を増やすように様々な対策を打ってきたが、その効果はあまり出ていないのが現実だ。

男性の無償労働時間がなかなか増えない背景には、男性(特に若い男性)が伝統的な性別役割分担論から抜け出せていないとの指摘もある中、活躍している女性の育児経験談でしばしばみられるように、育児がどれだけ大変だったかという声が大きすぎることがあると思う。育児時間は仕事を忘れられ気分転換になり、楽しいことも多く、そして喜びを共有できるなどプラス面も大きいことがもっと発信されることを望む。

無償労働からえられる満足度の再評価が広がると、男性の無償労働への希望も高まる。そうなって初めて「タイパ」で得られた時間を無償労働に自ら進んで割り当てるようになるのではないだろうか。


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