コラム  2023.03.07

政府と日銀の意思疎通の透明性強化

須田 美矢子

「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための 政府・日本銀行の政策連携について 」(共同声明)を巡って、総裁・副総裁の交代時でもあり議論が盛んだ。特に物価目標を「できるだけ早期に実現」という点に注目が集まっているが、この共同声明文からその真意を探るのはむずかしい。

実際、安倍首相は緊急経済対策閣議決定後の記者会見で、安倍政権の政策の1丁目1番地は「経済の再生」とし、物価目標については、「上下でトレランスとして1%の範囲におさまるように管理をしていくことこそが、中央銀行の腕の見せどころ」(衆議院予算委員会)、「2%の物価安定ということが一応目的であるが、本当の目的は、例えば雇用に働きかけをして完全雇用を目指していく、そういう意味においては、金融政策も含め目標については達成をしている」(参議院決算委員会)と言及している。他方、日銀は、共同声明の「できるだけ早期」を2年と限定し、異次元緩和に乗り出した。もっとも目標達成は後ずれし続け、それでも黒田総裁は共同声明は有効だと述べている。「できるだけ早期に」は今や政策運営の心構えを示したものとなっている。

このように共同声明の解釈には幅がありうるので、一部だけとりだして議論するのは全体のバランスを壊しかねない。連携強化を謳うこの声明文は、デフレ脱却となれば、用済みのはずだ。世界でインフレが高止まりする可能性がある中、そう遠くない将来にデフレ脱却があってもおかしくはない。それまでの間、共同声明文はそのままでその解釈について、政府・日銀の間で確認すればいいのではなかろうか。

ただ声明文廃止に反対が多いのなら、金融政策の検証を行いつつ、日銀法のもとでの平時における意思疎通のあり方を、時間をかけて作ればいい。その際にニュージーランド準備銀行とイングランド銀行のremit(指示書)が参考になりそうだ。

remitには金融政策の法律上の目的、物価目標など金融政策の大まかな枠組みとともに、政府の経済政策の目的も記載されている。今日では両国とも政府がそれを設定する。ただ文面は政府と中央銀行の合意形成が図られていると思われ、政府の意図がremitから伝わりにくいこともある。最近、英国では温室効果ガス「ネットゼロ経済」、ニュージーランドでは住宅価格のremitへの追加を政府が強調していたが、書きぶりは間接的で控えめで、中央銀行の慎重さが窺える。なお、ニュージーランド準備銀行はremitの変更の可能性について定期的に財務相に助言することが求められており、現在その作業中であるが、住宅価格をremitからはずすように公言している。

これらを参考にすると、政府・日銀が平時の意味のある声明文を作ろうとしても、結局あいまいなものとなると思われるが、両国のように公開書簡を多用すれば、かつ修正の可能性の手続を定例化すれば、この作成過程の議論が意思疎通の透明性を少しは高めるかもしれない。また、意思疎通の透明性強化には早期に情報を広く提供することも大事だ。英財務省のツイッターを使った情報発信方法も参考になりそうだ。


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