コラム  2020.03.06

「女性」は多様な「個性」の一つ

須田 美矢子

 安倍晋三首相は2013年4月、最も活かしきれていない人材は「女性」だとし、「女性の活躍」を成長戦略の中核に据えた。同年9月には米誌に寄稿し、「日本が成長を続けるには、ウーマノミクスの可能性を解き放つことが至上命題である」、「2020年までに女性の労働力を大幅に増やし、賃金格差を減らすことが日本の目標だ」と強調した。

 その後、6年間で女性就業者数は285万人増えたが、男女の賃金格差は少ししか縮まらず、現状は25%程度だ。OECDのジェンダー統計によると、日本の賃金格差はOECD加盟国の中で3番目に大きく、OECD諸国の平均との差は10%ポイントもある。

 「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」2019年版(世界経済フォーラム発表)によると、日本のジェンダーギャップ指数は世界153カ国のうち121位だ。これは過去最低で、管理職の人数や国会議員数の男女比など、経済と政治の分野のスコアが著しく低いことが原因だ。

 確かに質の高い労働力として女性が活躍できる場面は大いにある。例えば消費需要の掘り起こしやその商品・サービス開発については、SNSを利用した消費経験の活用を含め、女性ならではという視点が有効だろう。また技術革新によって場所を選ばない働き方が可能になって、育児をしながらハイスキルを要する仕事をすることも容易になった。女性として差別された経験があれば、差別されている弱者を「自分のコト化」でき、多様性の進展やESG対応といった仕事に力を発揮できるだろう。実際ESG担当責任者として活躍している女性は何人もいる。

 このように期待したいところは多々あるが、女性の意識は高くない。日本経済新聞のアンケート調査によると、管理職希望は2割に満たない。女性が活躍できる社会づくりが進んだ実感はないとの回答が6割近い。女性が非正規・短時間労働を選ぶ背景には、配偶者控除や社会保障の保険料免除などのための収入制限があるが、政府はこのような制度を廃止できないでいる。育児家事は本来女性がやるものとの見方をまだ払拭できていない。管理職や役員への女性登用など、政府の目標設定は格差を縮める要因にはなるが、本質的な解決にはならない。風土や価値観も同時に変わらなければ、女性重視が逆差別問題を生み、男性や女性との間で不公平感・不満を生じさせかねないからだ。

 結局、女性の活躍を成長戦略の中核とするのは無理があった。今でも政府は女性の活躍の旗を高く掲げているとしているが、位置付けは成長戦略ではなく、少子高齢化を克服する鍵としての「一億総活躍社会の実現」だ。いずれにせよ大事なのは、女性だけを切り取るのではなく、性別・国籍・年齢・宗教など様々な個性をもった多様な人々が個性を活かし、組織の一員として互いに認め合い、個々人の能力が発揮されかつシナジー効果が期待できるようになることだ。最近では取り組む企業も増えているが、「ダイバーシティとインクルージョン」を真の意味でいかに進展させるかだ。そうなれば、女性の活躍とともに生産性・成長率の上昇が結果としてついてくるだろう。


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