メディア掲載  2019.12.27

財政健全化へ、待ったなし

週刊 金融財政事情 2019年12月16日号(3336号)
須田 美矢子

 安倍政権は、経済再生と財政健全化の両立を目指し、2025年度に基礎的財政収支の黒字化を約束している。しかし、内閣府試算によると黒字化時期は後ずれしており、その実現は容易ではない。

 悩ましいのは今日、金融政策の効果は限定的で副作用が大きいとの見方が増え、財政政策への期待が高まっていることだ。金融緩和を強調していた論者も財政政策重視に変わり、欧州中央銀行やイングランド銀行の総裁も財政政策の重要性に言及している。そうしたなか、日本の基礎的財政収支の赤字継続は問題ないとの指摘が現代金融理論(MMT)提唱者や元IMFチーフエコノミストらからなされ、財政健全化への努力に水を差している。

 実際、財政規律が緩んでいることは確かだ。その背景には、基礎的財政収支が赤字でも政府債務残高の対GDP比が低下しうる条件(経済成長率>国債金利)が最近成立していることがある。「赤字国債」発行額が減少傾向にあることや、消費増税や基礎的財政収支の黒字化時期を延期しても市場の警戒シグナルが鳴らなくなったこともある。

 「財政問題の解決に近道があるのではないか」「財政状況が深刻という説明自体に過剰な点や隠されている点があるのではないか」。平成の財政と今後について意見を募集したところ、このような趣旨の意見や批判が財務省財政制度等審議会に寄せられた。消費増税や社会保障の負担増など、各論を巡って賛否が分かれ、財政赤字容認論も台頭しているなか、財政健全化の必要性について国民の賛成が得られにくくなっている。それでは思うように各種の改革も進まず、財政健全化が遅れることになりかねない。

 財政再建を国民の納得のうえで進めるには、意見の違いよりも合意点に焦点をあてることが肝要だ。国民が共有できる約束があってこそ本気で財政再建にくみすることができる。

 これまで重視してきた基礎的財政収支の黒字化の約束については、国債金利が成長率よりも低い状況が今後も続くとして、その必要性はないとの議論が続く可能性がある。財政拡張論者の勢いが増し、結果として約束不履行が続くと、財政健全化への政府の本気度が疑われかねない。現時点ではハードルがより低いもう一つのストック面での約束、つまり、「債務残高の対GDP比を安定的に引き下げていくこと」にもっと焦点をあてるほうがよいのではないか。

 日本は、政府債務の対GDP比率が世界最大であり、中央・地方政府の債務残高は、GDPの2倍程度に膨らみ、しかもさらなる累増が見込まれている。だれの目にも大きすぎることは明らかだ。政府残高が大きいとさまざまなショックに対して脆弱となり、インフレなど調整コストが大きくなる。経済成長にも悪影響が及ぶ。国民経済の健全な発展のために政府債務残高を減らす必要があることは合意を得やすい。ただ、それだけでは不十分で、財政健全化を着実に進めていくためには、中央・地方政府債務の対GDP比率についての約束を、現在の中間指標(2021年度に180%台前半)のように具体的に明記し、これに本気で取り組むことが必要だ。


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