メディア掲載 2019.11.20
日本銀行は、2016年1月のマイナス金利導入後、中長期的な予想物価上昇率が弱含む中、「総括的な検証」を経て、同年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を採用した。予想物価上昇率を引き上げる新たな方策も決めたが、中長期的な予想物価上昇率の高まりは後ずれし、横ばい圏内のままだ。
物価上昇率2%(物価目標)は遠ざかるばかりで、今回の展望レポートの物価見通しでは21年度でも1.5%だ。黒田東彦・日銀総裁は利下げに前向きな姿勢を示し、国際通貨基金(IMF)は最近、日銀がマイナス金利をわずかに引き下げ、それを少なくとも22年まで続けるとの見通しを出した。
マイナス金利政策が長引けば、副作用が大きくなる。金利の深掘りがあればなおさらだ。「総括的な検証」では特に長期・超長期金利の過度な低下が、金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性があるとした。前回(9月)の記者会見でも黒田総裁は「イールドカーブ(利回り曲線)はもう少し立った方が好ましい」とし、「適切なイールドカーブになるように、国債買い入れについて必要な調整は行っていく」と述べた。
しかし、超長期債の利回りが国債買い入れの調整で上昇すると、生命保険や年金、海外からの需要が増え、国債価格が上昇し利回りが低下してしまうので、イールドカーブをこれでうまくコントロールできるとは思えない。日銀は物価見通しが下振れる中、昨年4月に物価上昇率が2%に達する時期を示すのをやめた。その姿勢が2%の到達は無理ではないかとの懸念を呼び、予想物価上昇率を低位安定化させ、マイナス金利が解消される見通しを持てなくさせている。これではイールドカーブのフラット化は避けられない。
それを回避し、副作用を軽減するには、日銀は物価上昇率2%の到達時期、あるいは米国の例を参考に引き締め開始時期について大まかな見通しを示すとともに、それが市場と共有されることが望まれる。それは予想インフレ率の高まりにも資するだろう。