メディア掲載 2019.03.28
米国のトランプ大統領はドル高けん制の発言を強めており、日米通商交渉で為替問題を取り上げる意向で、円高トレンドが意識されるようになった。FOMC(米連邦公開市場委員会)が物価上昇圧力の弱さ、世界的な景気鈍化などから、追加利上げに「様子見」であることも、ドル高一巡に拍車を掛けている。
日本国内では、円高懸念から金融緩和論も出ている。為替レートの過度の変動に市場介入などを行うことは国際的に否定されていないが、ハードルは高い。国内目標達成という名の下で金融緩和で対応してきた経緯もある。
確かに円高は輸入物価下落を通じて物価を下押しする。輸出企業の収益も悪化させる。ただ、企業は輸出入取引で為替リスクを相殺するなど為替対策を取ってきたし、輸入物価下落は実質所得を増やすなどプラス面もある。
なお、日本銀行の展望レポートによると、各通貨の対円レートを貿易額で加重平均した実効ベースでの10%の円高でも、消費者物価の対前年比は一時的に最大で0.5%ポイント下がる程度だ。
では、今、金融緩和の議論は必要なのか。結論からいえば否だ。
為替水準については、内外物価動向を勘案した実質実効レートが実体経済にとって重要だが、IMF(国際通貨基金)の2018年の評価でも「ファンダメンタルズとおおむね整合的」といわれる。
名目の円ドルレートを見ると、18年平均が1ドル=110円強で今年2月も同様の水準だ。他方、OECD(経済協力開発機構)による購買力平価は1ドル=100円程度だ。つまり、水準的に円高状況にはない。円高対応力も強まっており、金融政策の見通しを緩和方向にすぐに変える必然性はない。
1980年代後半、金融政策は国際協調の名の下で為替レートに縛られた。インフレ率が低かったこともあり、引き締めになかなかかじを切れず、それがバブルとその崩壊の一因となった。
低いインフレ率が続く中、この経験を忘れず、為替レート偏重になるべきではない。円高の影響を冷静に分析し、国民が円高恐怖症から卒業することが必要だ。