コラム 2019.03.04
日本の基幹統計の一つである毎月勤労統計の不適切な調査が明るみに出て、大きな関心を呼んだ。統計の補正に伴い雇用保険や労災保険の追加給付が必要となり、政府は2019年度当初予算案の閣議決定をやり直した。また、その他の多くの基幹統計にも不適切な調査がみつかり、政府統計への信頼が揺らいでいる。
これは日本企業の品質問題に通じる面がある。大企業が次々と品質問題を引き起こし、日本製品の安心・安全神話が崩れてしまった。品質は、法令違反ではなくとも検査が顧客との契約と異なれば問題となる。このような状況が放置された背景には、現場力で品質は維持されているとの過信があり、経営層が品質管理に注力してこなかったことがあろう。当の現場は、前例踏襲に疑問をもたずにいたということで、統計問題の発覚に際し、担当者から聞こえてきた声と同じだ。ただ、特別監察委員会の報告書にあるように、事実を知りながら漫然と従前の取扱を踏襲したという点で、政府の方が問題だ。
その後の対応も官民で違いすぎる。民間企業の場合には風評被害もあり、収益やブランドに傷がつくことから品質問題の解決は最重要課題となり、調査漏れがないよう調査は徹底的に行う。他方、特別監察委員会が調査対象を毎月勤労統計の事実関係とその評価に限り、一週間で調査報告書を出したのはどうみても拙速だ。品質問題が発覚したら氷山の一角とみて、少なくとも厚生労働省の基幹統計はすべて調査に取り込むべきだった。
基幹統計の調査方法の不備は全体の4割にも及び、その原因で最も多いのは単純ミスだと説明されているが、法令違反との報道もあり、単純ミスと言い切れるのか定かではない。統計法では、公的統計は行政利用だけではなく、社会全体で利用される情報基盤として位置付けられている。また、基幹統計調査を変更するときは、あらかじめ、総務大臣の承認が必要だ。これまでの政府の対応をみると、政府統計は情報基盤であるとの認識や統計法の法令順守の姿勢に疑問を抱かざるをえない。
日本銀行も公的統計を作成しているが、短観の精度を維持するための努力や、世論調査である「生活意識に関するアンケート調査」の不適切な収集・集計問題への対処や訪問調査を郵送調査に変更した際の検討内容を知る者からすれば、統計作成の重要性を政府にはもっと認識してもらう必要がある。
今後の改革案として、官庁横断の司令塔の強化、独立の機関の設立や監査の強化などが提案されている。しかしこれまでの調査方法を前提にした改善では、政府統計の精度向上は望めない。実際に調査を行っている調査員の高齢化や後継者不足、官庁におけるベテラン統計専門家の退職、企業側の負担感もあり、いずれ再び品質問題が発生する可能性は低くはない。公的統計の改善をめざし統計法が全面改正され、統計委員会ができてから10年以上たつが、十分な成果が発揮されているとはいいがたい。
この際、統計調査の抜本的な対策が必要だ。IoTの時代、予算をつけて統計調査の電子化を速めることが、調査も含め統計の精度を上げるためにも必要不可欠だ。