メディア掲載  2018.10.22

【数字は語る】消費財の輸入が増加-為替ヘッジのために外貨資産にも注目を

週刊ダイヤモンド 2018年10月20日に掲載
須田 美矢子

 リーマンショックなど深刻な問題が顕現化すると、投資家はリスク回避を強め、資金を収益が確定しかつ流動性が高い「安全資産」に移す行動を取る。これまで、この安全資産の一つが日本円であり、市場が混乱すると、リスク回避から円の需要が高まり、円高となっていた。

 日本には、国債や預金など安全資産と見なせる資産が十分にある。日本は外貨準備と対外純資産が潤沢であり、経常収支も黒字で、これまで円の対外価値が疑問視されることはなかった。

 もっとも、今後もこの状況が続くとは言い切れない。日本国債は、日本銀行による国債の大量買い入れで流動性が低下し、投資家が短期間に売買しにくくなり、投資家からの魅力が低下している。日米間の金融政策の違いによる金利差拡大で、円の対外価値は基調として円安だ。加えて日本の財政赤字も悪化している。安全資産としての円の魅力が低下しており、「いざというときに円資産が資金の逃避先になる」などという説が通用し続けるとは限らないのだ。

 日本の家計も、資産の安全性を重要視してきた。実際、家計が保有する現金・預金の金融資産に占める比率は6月末で52.5%と高い水準にある。

 他方、消費面では、安全資産を保有していても実質価値は消費者物価によって変動するので、安定的な消費の維持にはつながらない。

 物価変動の一因が為替レートだ。鉱工業の消費財総供給の輸入比率は2割を超えており、近年、消費者物価が為替レートの影響を受けやすくなってきている。

 現在、家計の金融資産の外貨建て比率は3%程度だが、家計が輸入に見合ったかたちで外貨建て資産を保有していれば、資産額が為替レートに合わせて変化するので為替変動の消費への影響を中立化できる。言い換えれば、海外資産を保有することは、為替リスクをヘッジすることになる。

 このような考えから、家計が外貨建て資産をもっと安定的に保有することは、国際金融取引の多様化に資する。また長期的な視野での取引を促すことになり、国際金融市場の安定化要因ともなり得る。


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