コラム  2018.09.03

説明責任を果たすことの大切さ

須田 美矢子

 パウエルFRB議長は6月の記者会見の冒頭で「金融政策の影響はすべての人に及ぶので、経済がどう動いていて、FRBが何をしようとしているか、その理由も含めて平易な言葉で要約することから始めたい」と述べ実行に移したが、7月の議会証言でも平易な言葉で説明を行い、議員から高い評価をえた。金融政策についてわかりやすく説明することは、金融政策の有効性を高めるためにも、説明責任を果たすためにも、とても重要だ。

この点、日銀が7月31日に決めた金融政策については何を企図しているのか伝わりにくく、黒田総裁の記者会見を聞いてもよくわからなかった。もっとも、わかりやすい説明であっても舌足らずだと納得感がえられない。黒田総裁就任直後、日銀は量も質も2年で2倍にし、消費者物価上昇率を「2年程度で2%」と2に焦点を当ててわかりやすく国民に訴えかけたが、日銀が望んだ効果は結果的にはえられなかった。その後マイナス金利導入、イールドカーブコントロール、そして今回、フォワードガイダンスの導入で、金融政策の枠組みが非常に複雑になってしまった。今回の決定は市場関係者でも解釈が様々で、説明責任が果たされているとはいいがたい。

 日銀が行っているアンケート調査によると、外部に対する説明について、「わかりにくい」が過半を占め、その理由として4割が「日本銀行の説明や言葉が専門的で難しい」と答えている。「2年程度で2%」を実現させるとのコミットメントを、結果で示せていれば、詳しい説明がなくても国民は金融政策に納得感をもてたかもしれない。しかし、今回示された物価見通しによると2%への到達は後ずれし21年度以降となった。だからこそ多くのことに説明が必要になる。

 物価見通しの下振れに伴い強力な金融緩和がもっと続くと想定されるということは、その副作用も大きくなる。ここのところ金融緩和の副作用について関心が高くなり、金融機関による公の場での日銀批判も増えてきた。またFRBにならって出口の議論だけでも早めにという声にも答えようとしない。聞く耳をもって、人々の疑問に真摯に答える姿勢が望まれる。

 説明責任が十分果たされていないのは政府についてもだ。財政再建で基礎的財政収支の黒字化の約束が5年先延ばしされ25年度になったが、それも楽観的な経済見通しに基づく。国際的な公約の先延ばしを余儀なくされた理由をしっかりと説明するとともに25年度には黒字化を実現させるためにどうするか信頼に足る説明が必要だ。成長戦略についてもその実現に向けて、主要業績評価指標KPIの目標値を定め、目標への工程表を示しているが、検証は十分ではない。結果がでてない部分についてどうやって実現させるのか、目標設定の是非を含めしっかりと説明してほしい。

 国会の議論を聞いていても、問題の核心をついた議論は少ない。どんな論法でもいいから相手を困らせたり攻撃をうまくきりぬけたら勝ちとする「ディベート」では、いくら国会で議論に時間をかけても説明責任が果たされない。日本の改革は待ったなしなのになかなか議論が進まないことに危機感が強まるばかりだ。


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