コラム 2016.03.01
国際金融のトリレンマは、自由な資本移動、金融政策の自主性、為替レートの安定の三つを同時に実現させることは困難だというものだ。単純に言えば金融政策の自主性を確保するには資本移動を止めるか為替レートの安定(固定レート)をあきらめるしかない。
先進国の場合、ユーロ圏内は別にして固定レートが放棄されたが、得られたはずの金融政策の自立性も、今日では政策金利がゼロ近傍となって、疑念が生じるようになっている。金融政策の主たる波及ルートが為替レートとなるため、内外全体で考えると、金融政策の自立性を内外同時に達成することはできないからだ。内外ともに政策目標に届かない場合、技術的には様々な緩和手段を考えることができても、その効果は海外の金融緩和によって相殺される。金融政策の自立性の限界を意識せざるをえない。
新興国の場合には、別の問題がある。国内金融市場の発達不足で、資金調達は外貨建て・短期の資金に頼らざるを得ないというミスマッチ問題を無視できない。この場合、自国通貨の減価は外需にはプラスだが、自国通貨建ての債務を増やすので、為替レートの変更には消極的になる。金融政策の自立性を確保するには二者択一ではなくある程度の為替レートの柔軟性と資本移動規制という中間的な選択が主流となっている。IMFも、今日ではプルーデンス問題もある中、資本移動規制を肯定的にとらえている。
新興国に含まれる中国も同様な選択をしているが、人民元の国際通貨化も考慮に入れる必要がある。中国は国際金融におけるドル依存体制を問題視し、人民元の国際化、人民元のSDR構成通貨入り、IMFでのSDRの地位向上を企図しているからだ。
中国では、為替レートの自由化は、市場の基調に見合った基準値の決定、基準値の変動幅の拡大、基準値決定の際の参考通貨の拡大などを通じて、人民元の国際化は主として香港オフショア市場を通じて、資本移動の自由化はSDR入りの要件を意識しながら順を追って行われ、昨年10月末にはSDR入りが決まった。中国は2020年をめどに「管理された完全交換可能通貨」を目指し、資本移動については、事前承認から事後管理・監督へ転換し、実需と投機を区別し、投機は規制するとしている。
ただ投機と実需の取引上の区別は難しい。元安予想で生じる輸出入のリーズアンドラグズや債務返済の早期化などは止められない。また規制の抜け道も多い。かつてニクソンショックのときに日本は厳格な為替管理のもと為替レートは操作可能と自信を持っていたが間違いだった。最近の中国も操作できるという過信があり、それが市場の混乱につながっている。
投機は悪いものとの認識も問題だ。実需による短期的な為替レートの弾力性は低いので、市場にまかせて短期的に為替レートが安定するには投機による為替レート安定化機能が欠かせない。
なお、真の国際通貨を目指すなら人民元の利便性を高める必要があり、年初にみられた予想外の規制や説得による誘導は望ましくない。実質的には資本移動規制は困難との認識のもとで、責任ある立場で新興国が参加する新たな国際通貨金融システムの構築に資するとの視点から、人民元の柔軟性について再考する必要があろう。