コラム  2024.11.07

地図の効用

目的地-距離-時間
日下 一正

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目的のお店に辿り着くのに地下鉄の駅を出てスマホのナビの右、左の指示に従うのが苦手である。途中で地図そのものを探す羽目になる。ミシェランの印刷された地図を持っていれば不慣れな海外の都市も歩けた筈なのにと思う。車のナビも進行方向が上向きの設定にすると、「次を右、左」と言われて何処を走っているのかに意識も向かわず、抜け道に出ようにも目的地はどの方向か不明である。結局、地図と同じ北が上の画面設定に変えて、全体像を捉えることも有る。

望遠鏡が英国で発明された5年後に英国王ジェームス1世から徳川家康に贈られているが、危険を伴う大航海時代、北極星の見える角度から緯度と経度の計測をし、精度を高めていく時計と相俟って地球上の何処に居るのかを知る事が出来る技術であり、英東インド会社、大英帝国を支える最先端の軍事技術であった。

右上の写真に写っている環日本海の地図はいわゆる逆さ地図として知られているが、作成された直後の1995年から常に私のオフィスに置いてきた。この地図は米国からの来客、特にNSC、国防総省、国務省関係者からは面白がられ話のきっかけを作った。通常どの国も自国ファーストで地図の真ん中にどんと位置していて、それが世界観を作り、他国からはどう見えているかは気づきにくい。この地図は中曽根総理が不沈空母日本列島と語ったように、大陸側から太平洋に出ようとすると日本列島が覆い被さっている絵になっている。ただ、富山県としての地図の作成意図は、日本海沿岸はかつて大陸からの文化が入ってくる表玄関で今後の交流の中心だという発信であった。

エネルギーの世界では、”Map, map, map!” が常套句である。

70年代の石油危機からは「脱中東」、シェールガス・石油で「米国」、ウクライナ侵略で「脱ロシア」が謳われる。その時の石油の「地政学」とサプライチェーンがどうなるかがスッと頭の中に浮かんでくるためには、普段からロシアから欧州への天然ガスのパイプラインでの流れ、関係国の対立関係、代替手段の場合の距離及び輸送手段、シーレーン防衛は誰が担うのかなど基礎が必要だ。各国が国益を守るために動く。80年代には独、英がソ連からの天然ガスパイプライン新設に動く中、米レーガン大統領が「赤いガス」を買うなと反対し、サッチャーが帝政ロシア時代からロシアはエネルギー供給では信頼できるし、欧州のリング状のパイプライン網には多様なソースからの供給も有るからご心配なくと強行し、現在の対ロの依存度に繋がった。

いま、水素、蓄電池の開発が最優先の課題に挙げられる。実は、50年前、73年の第1次石油危機を契機に「サンシャイン計画」がスタートし、私も77年に参画した。当時から水素は太陽、地熱などと並び4本柱のひとつで、再生可能エネルギーは電力に成るが、不確実性と電力に於ける生産と消費の同時性を克服つまり、発電と消費の異なる「時間」と「空間」を繋ぐには水素と蓄電池が不可欠との理解によるものである。更には、水素を原子力の高温ガス炉で水から直接作れるようになれば、水素及び熱は近接のコンビナートに立地する製鉄などの産業を支えることになるという絵も描いた。サンシャイン計画は、NASAがスプートニクショックから”mission-oriented” R&D projectとして総力戦をやるという手法に学んだ。50年経って道半ばだが、海図が無かった大航海を、いまや海図を作りながら夢と熱意を持って目的地へ進んでいる。


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