コラム  2021.11.04

グローバリゼーションの中でのアジアの”regional architecture”

日下 一正

この2年間、コロナへの対応に各国とも追われ、現職の指導者がその対応が功を奏していないと批判の的となっていたため、他の政策課題への対応する政治力の余裕がない状態が続いてきた。

いま漸く、社会生活、経済活動が再開される中で、暫く「棚上げ」されていた諸課題を思い起こしてみたい。

この10年間、格差問題を機に負の側面が指摘され、グローバリゼーションが諸悪の根源であると非難を受けてきた。ある意味で、今回のパンデミックも、嘗ての物の貿易からヒトの往来によって支えられるサービス貿易と直接投資が進んだことにより、従来の経験を超えるスピードでの感染が起こっていると、ヒトの移動への反発が目立っている。

脚光を浴びず静かな環境の中、RCEPの合意を見、いまTPP11への英国及び中国の加盟申請が動き出している。

中国の関心は2014年に遡る。当時、日中韓のダイアローグを立ち上げようとした際に、中国側から日韓がどうやってFTAの負の影響や国内の反対を乗り越えたのかその経験から学びたい、という意向が示された。トップから中国がTPPに加盟すると国内の経済・政治がどうなるか内々研究するようにとの指令が出ていたからである。また、中国は過去にWTO加盟という外圧を利用して国内改革に英断を奮った成功体験も有る。そもそも、米国を始めとするTPP推進側にとって、中国は当初から隠れた交渉メンバーでもあった。つまり、中国の将来の加盟を想定したからこそ、国有企業に対する規律、知的財産権に掛かる高度な規律、法の支配のための透明性の確保に目を配った訳である。現在のテクノ冷戦の文脈が顕在化するまでは、当然中国加盟は歓迎されるものであった。

TPPはドーハラウンドの挫折後WTOの自由化が進まない中、有志で前へ進もうとする狙いで始まっており、環太平洋と銘打って有っても地域的概念は希薄である。英国から見れば英連邦の復興を目指すボリス・ジョンソン首相の"Global Britain"の傘の下では、他の旧英連邦TPPメンバー同様、もともとアジアに住所は有るという捉え方であろう。

他方、RCEPは、東アジア経済コミュニティ造りの第一歩で有り、DNAとしてはヨーロッパ共同体(EC)を指向した動きに繋がるところが有る。勿論、こちらもASEANFTAを結んでいる国は加盟資格有りとオープンになっており、いつでも米国が希望すれば加盟出来る仕掛けになっている。

テクノ冷戦下においても、どこで競い(=戦い)どこで市場経済の中で平時のビジネスを行い得るかという、透明性と予測可能性が担保された環境を創りあげることが、世界経済の持続的な発展のため必須である。

日本がアジアで再びリーダーシップを発揮できるよう1980年代の終わりにAPECを構想したとき、日本はアセアン諸国に働きかけ、豪州は米国への根回しと正式な提唱を担った。第3回のソウルでの会議で中国、台湾、香港といういわゆる3つの中国の加盟を得た。アジア地域の制度設計において、米国と中国無しには安定かつ健全な構造は造れないとの認識に基づくものである。

中国に対峙しどう健全な関係を造るかについては、歴史、地政学及び経済関係から、日本は最大のステークと知見を持っている。APEC構想の初心に戻り、現テクノ冷戦下での制度及びルール造りに日本が貢献できる機会が巡ってきた。


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