コラム  2023.04.07

ChatGPTの使い方

林 文夫

ChatGPTはテキストを生成する最新の対話型AIで、たった2ヶ月で1億人が使うようになったそうだ。私も仕事に使えないかと思い試してみた。

百科事典的には使えない。ウィキペディアに遥かに劣る。「林文夫の経済学への貢献を述べよ」と入力したら、彼は大蔵省出身の政治家であり、「経済学の分野においては、彼がどのような業績を残したかは明確ではありません」と答えてきた。答えの後半は正しいかもしれないが、前半は虚偽だ。私程度の知名度だとこういうことが起こる。

昔は活字信仰、今はネット信仰が問題になっているが、ChatGPTの言うことを鵜呑みにする人が続出しないか心配だ。

内容の真偽はともかく、与えられたお題について文法的に正しい文章を書くことはできる。「8世紀から19世紀までの時期におけるトルキスタンの歴史的展開について記述せよ」という問題が去年の東大入試で出たが、もっともらしい答案を書いてきた。昔話になるが、私の世界史の入試対策は、山川出版の教科書を丸暗記することだった。これを元ネタに、頭の中でコピペして入試を乗り切った。ChatGPTの本質はコピペ上手なことだと私は思う。

そうであれば、質問を工夫して適切な元ネタに導いてあげれば、虚偽解答は減らせる。Rというプログラミング言語でこれこれこういう体裁のグラフを作成したい、と入力したら、使うべきコマンドについて非常に有用な答えが返ってきた。Rのユーザーマニュアルが元ネタとなったからだろう。

運慶は、大勢の弟子を抱えた工房で仏像を制作した。MITの有力教授も、院生をRA(研究助手)として使いこなして論文の量産をする。MITの院生を雇えない私は、ChatGPTがどの程度RA代わりになるか気になる。

まず、今私が書いている英語の論文のイントロを丸ごと読ませたら、2秒ほどしてから、数箇所の改善の示唆をしたあと、”Overall, the text is well-written and the grammar is sound.”と言ってくれた。論文のグラフをRで作成するのに試行錯誤で数日を費やしたが、もしChatGPTを使っていたら、この作業は1日に短縮できたと思う。

既存文献のサーベイをやらせるのはまだ無理だ。「日本の長期停滞についての学術論文を数点挙げよ」という入力に対して、当然引用されるべき論文は挙げなかった一方、存在しない論文を入れてきた。著作権で保護された学術論文は今のところ読んでいないようだ。

パソコンやサーバーの普及により、昔なら実務とされた作業はバックオフィスが引き受けるようになった。ChatGPTのようなAIの発展により、法務部を含むバックオフィスの省力化は一気に進むだろう。かくして全ての人間はクリエーターになる。


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