コラム  2021.10.05

研究と教育の両立

林 文夫

東大を頂点とする偏差値ピラミッドは今でも健在だが、一昔前と違うのは、海外も選択肢に入れる受験生が増えたことだ。自分が受験生で、世界のどの大学に行ってもよいと言われたら、どれを選ぶか空想にふけることがある。

どうせなら世界一の大学に行きたい。世界の大学番付はいくつもあるが、イギリス系のTHETimes Higher Education)ではOxfordがアメリカの銘柄大学を抑えて1位にランクされる。しかし日・米・英で教えた私の経験からすると、THEはイギリスに甘い。アメリカの友人の教授に訊いたら、大学の執行部が一番気にする番付はUS.Newsだろうという。そこではHarvard, MIT, Stanford, Berkeleyに次いでOxford5位。

残念ながら、いずれの番付でも東大は上位に出てこない(US.Newsでは73位)。US.Newsはアメリカに甘いかなと思い、東大より上の大学を調べると、日本以外のアジアの大学が何校もランクインしてくる。

ただ、受験生にとって、これらの番付はあまり参考にならない。そこに登場するような大学は、教育より研究を優先する総合大学だからだ。

大学関係者は口が裂けても言わないが、少なくともアメリカの総合大学では、大事なのは大学院。学部教育はどうでもよい。学部学生たちは、教授に真面目に教えてほしいから、teaching award を設ける。学部長の仕事の一つは、表彰を受けた若手の助教授に、「これは kiss of deathだ。こんな賞のために時間を使うより、論文を一つでも多く書け。さもないとテニュアは貰えないぞ」と耳打ちすることだ。

私が受験生なら、HarvardでもOxfordでも東大でもなく、アメリカのliberal arts collegeを選ぶ。ご存知の方も多いと思うが、カリキュラム的には日本の学部の教養過程を4年にしたような大学で、たいてい美しい田舎町にある。学生も教授もキャンパスかその近くに住む。授業は少人数で、学生と先生との対話が重視される。御三家はWilliams, Swarthmore, Amherstあたりだろうが他にも名門がいくつもある。著名人も多数輩出している。

具体的な大学の雰囲気は、インディ・ジョーンズの(冒険に出る前の)ハリソン・フォードからイメージしてもらえればよい(ちなみに彼の息子はAmherstの学生らしい)。ただ、映画“Liberal Arts”2012年、邦題は「恋するふたりの文学講座」)から読み取れるように、4年間の浮世離れの弊害はあるかもしれない。個人の感想だが、liberal arts college 出身者には「いい人」が多い。

大学紛争の嵐が吹き荒れたのは1960年代末だった。そのころ私はまだ受験生ではなかったが、研究と教育の両立が悩ましい社会問題であったことは記憶している。研究と教育は、個々の大学レベルで両立する必要はない。学部教育をウリにして学生を集める大学と研究優先の大学が共存していれば、研究と教育は社会全体で両立している。


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