コラム  2020.12.03

コロナ禍の向こうに(続)

堀井 昭成

 「コロナ禍の向こうに」と題した一文を書いてから半年後の2020年晩秋、コロナ禍の経済に与える影響について幾つか見えてきたことがある。

 まず、経済のグローバル化を利用した企業活動モデルに不具合がでてきた。従来は最低コストの生産拠点を繋ぐサプライチェーンを効率的に運営することが企業経営の成功の鍵だった。しかし、コロナがサプライチェーン途絶のリスクを顕在化したため、適正在庫の目線が引き上がるとともに、生産拠点の分散を含め多様なリスク管理の重要性が強く意識されるようになった。ある企業経営者が「just in time経営からjust in case経営に」と言っているが、至言だ。

 コロナは国際政治にも影を強く落としている。オバマ政権末期から次第に強まってきた米中間の貿易・投資・安全保障面での対立をコロナがさらに鋭くした。この対立激化は、just in case経営と重なってグローバルな資源活用を阻害する。

 DXの進展もはっきりしてきた。店舗販売・対面交渉からe-commercee-businessへの動きは、コロナ以前から徐々に進んでいたが、コロナを機に加速した。さらにオンライン教育・医療やリモート・ジョブにまでDXの外延が拡がった。前述したグローバル経済の軋みが経済の生産性向上を阻害する一方、DX拡大は生産性向上を促進する。どちらの効果が大きいかは、産業・企業毎にその特性と対応によって異なるだろう。

 コロナ禍は政府の市場経済への介入の度を強めた。各国で財政負担での一時給付金支給によって景気の急速な落ち込み防止が図られた。その後日本では「Go To 〇〇」のタイトルのもと、費用対効果の不明な各種財政支出がなされている。金融政策面ではアメリカを筆頭に各国の中銀が、十数年前の世界金融危機時の教訓を踏まえて、企業の資金繰り倒産を防止するために多角的な緩和策を実施した。

 さて、こうした流れは今後の経済、主に日米経済に、どう影響するだろうか。総需要面では、個人消費はコロナ禍のもとで一旦冷え込んだが、ロックダウンが解除されるにつれて回復してきた。家計の金融資産の蓄積増をみるに、特効薬・ワクチンが利用可能になれば、手控えられてきた消費が急拡大するだろう。設備投資はDXに絡んで底堅さを加えるだろう。政治のポピュリズム傾向と歩調をあわせて財政支出の拡大傾向も続くだろう。そして公的債務残高も累増する。この間、金融市場では、銀行貸出の伸びがコロナ後に顕著に高まった。金融緩和の効果が主に銀行間流動性に留まっていた従来とは様相が異なる。

 総供給面をみると、コロナが始まる少し前までは、グローバル化とデジタル化がその拡大を支えていた。このうちグローバル化にはコロナとポピュリズムがタガをはめた。総供給の円滑な拡大のカギはDXが握る。この面で日本はこれまで海外に大きく劣後してきた。裏を返せば、先を行く海外の物まねをするだけでも、大きな生産性向上が得られるはずだ。DX面での劣後の大きな原因は、既存の制度慣習への安住ないし固執。来る2021年を、DX進展と旧弊打破が相互作用して経済を前に進める年にしたいものだ。 


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