コラム  2015.10.21

原子力問題の総合的な解決に向けて

澤 昭裕
 先日、2030年のエネルギーミックスや電源構成に関する政府案が決定された。電源構成で言えば、原子力は20-22%、再生可能エネルギーが22-24%、残りの56%がLNG、石炭、石油などの化石燃料火力発電があるべき姿とされている。この電源構成は次の3つの政策目標を達成するために必要な割合として算出されている。第一に、エネルギーの安全保障を確保するために自給率を約25%程度まで高め、第二に、電力コストを現状以下に抑制し、第三に、温暖化対策に必要な温室効果削減の努力が欧米諸国に比べて遜色がないことである。

 実は、今回のエネルギーミックスや電源構成については、昨年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画を実行するための定量的な裏付けという意味以上のものではなく、今年末に行われる温暖化交渉国際会議(COP21)を前にした日本の削減目標の提示のために必要な作業という新たな側面はあるものの、基本的に大きな政策の変更を伴うものではない。したがって、エネルギー基本計画では決定されなかった原子炉の新設やリプレースといった問題は、今回の検討対象となっておらず、そもそも今回のエネルギーミックスの目標値はその範囲内で、上述の三つの政策目標を達成しうる構成が探索されたものという位置付けなのである。

 では、原子力の中長期的な問題については、いつどういう形で抜本的な検討が行われるのだろうか。それは、次回のエネルギー基本計画の見直しの時期に向けて、というのが正しい答えだろう。意外に知られていないが、エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法第12条第5項に基づき、少なくとも3年ごとに見直しの検討を加えることが政府に義務付けられているのだ。昨年4月に決定された現行のエネルギー基本計画は、あと2年弱でまた見直される予定だということである。

 次のエネルギー基本計画の見直しでは、さすがに原子力についての新設・リプレース問題を含むさまざまな課題を先送りするわけにはいかない。特に、高経年化が進む日本の原子力発電所の状況を考慮し、運転開始までのリードタイムを考えると、新設・リプレース問題についての判断は2年後にはもう待ったなしの状態になっている。

   あと2年というと、行政のスケジュールから言えばほんの「短期」でしかない。現行の基本計画は総合資源エネルギー調査会の原案が提示された後、政府や与党内部の調整プロセスに半年弱かかっている。次回の見直しに当たっても、同様のプロセスを経るとすれば、実は実質的な議論を深く行って、持続可能な新たな政策方針を編み出していくために残されている時間は意外に短いのだ。長くみても1年半程度しかないだろう。

 原子力の中長期的政策について、その間に議論して一定の方向性と具体的施策を打ち出していくためには、次のような課題を検討対象にしておく必要がある。(1)(新設・リプレースに前向きになるならば)電力自由化による総括原価主義による料金規制の撤廃によって困難になる初期ファイナンス問題の解決策、(2)核燃料サイクル政策に関する官民の役割分担と費用回収の仕組みの構築、(3)原子力安全規制の合理化と1F事故の教訓の国内外への普及、(4)原子力損害賠償法における官民のリスク分担や事故時のコミュニティ再建策の検討、(5)最終処分地選定に関する新手法(国が科学的有望値を示す)の効果の評価、(6)原子力技術に関する研究・技術開発体制、予算のあり方に関する考え方の整理と実施、(7)原子力関連インフラ輸出戦略の検討、(8)原子力人材の維持・育成についての組織体制及びプログラムの確立、等々である。

 従来であれば、原子力委員会が中心となって、原子力利用に関する長期計画や大綱的なものをまとめてきたが、1F事故後に原子力委員会の権限と責任が大幅に縮小された現在となっては、別の検討体制を組む必要がある。基本的には経済産業省が中心になって、上記の各課題を検討していくべきだろうが、現在経済産業省には原子力事業に関する法的なツールは存在せず、「担当だから」という理由だけで行政を行ってきている。

 この際、原子力の将来について考えるため、経済産業省や現在の原子力委員会が共同事務局となって、内閣官房に検討組織を設置し、原子力基本法から以下の法的な体系や原子力事業に関する実施体制の見直し作業を実施してはどうだろうか。検討メンバーとしてこれまでの原子力コミュニティの範囲にとどまらず、電力ユーザーでありかつ産業保安でも共通の課題を有している別の産業界からの経営者や研究・技術開発マネジメントに実績のある有識者、さらには世界の安全規制や原子力事業に詳しい海外からのメンバーなどを集めて、原子力政策の基本的なあり方について議論してもらうことが重要だ。政府で音頭をとるのが難しければ、民間に「原子力政策臨調」を組織して、こうした課題に総合的な検討を加える体制を組むことも考えられる。

 いずれにせよ、原子力政策は大きな曲がり角に差し掛かっている。そろそろ、これまでのように諸課題を個別に処理するのではなく、相互の関連性を考慮しつつ総合的な政策を打ち出さなければ原子力の未来はないというポイントまで来ているという認識が重要だ。


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