外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2024年2月21日(水)

外交・安保カレンダー( 2月19日-25日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


今週も世界各地で様々な動きがあったが、まずは先週お約束した通り、14日のインドネシア大統領選挙について書いてみよう。筆者はインドネシアの専門家ではない。そこで同大統領選挙について書かれた内外報道を幾つか読んでみたのだが、当選したプラボウォという政治家のことは、これがどうも良く分からないのだ。

ある日本のインドネシア専門家は同氏を「権力欲は強いが、明確な政治イデオロギーはなく、政策の方向性も示せていない」と評していたが、「なるほど、そういうことか」と思った。大統領選は3度目の挑戦らしい。昔は民主活動家への人権侵害疑惑もあったが、今回は「カワイイ」キャラで若者受けするイメージ選挙に勝利したようだ。

一方、同氏はジョコ前大統領の息子を副大統領候補にしており、ジョコ一家の院政「傀儡」の疑惑も取り沙汰されている。新大統領が権威主義的政治家なのか、大衆迎合主義者なのか、それとも前大統領の操り人形なのか。色々言われているが、要するに良く分からない。プラボウォ氏の大統領としての力量は未知数ということだろう。

でも、かくも多くの島と人口を抱えながら、インドネシアがしっかりと民主選挙を実施し、平和的政権交代が続いていること自体は率直に評価すべきだろう。今回も各国から選挙監視団がやって来たが、問題は指摘されていない。どこかの大国では、今でも、2020年大統領選挙は「盗まれた」と騒いでいる輩が大勢いるというのに・・・。

続いて気になったのは、先週開かれた第60回ミュンヘン安全保障会議だ。同会議に出席した米国の友人が興味深い率直な感想を述べている。要するに、昨年はウクライナ戦争について楽観的なムードだったが、今年は様変わり。戦争の行方、NATOの将来、米国の役割などについて極めて悲観的な雰囲気だった、というのだ。

昨年はG7議長国だったこともあり、日本からは外務大臣が出席し、「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分」で、日本は「防衛力の抜本的強化、日米同盟の現代化、同志国との連携強化」で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現すると述べた。対中警戒感を欧州諸国にも浸透させる上で日本は結構頑張ったと思う。

ところが今年はどうだ。日本からの出席者は防衛大臣政務官。同政務官には申し訳ないが、考えてみれば、衆議院予算委員会の真っ最中で、かつ日本ではウクライナ首相を迎えウクライナ復興会議を開いていたのだから、仕方ないのかもしれない。日本は、それなりに、やるべきことはやっている、のだとは思う。

それでも、昨年と比べれば、今回の会議は「元気がなかった」印象がある。ウクライナ戦争は先が見えなくなり、ガザ紛争でウクライナどころではなくなり、ロシアではプーチンの政敵が「抹殺」されたとも報じられ、インド太平洋、中国の脅威の議論も進まなかった。今年のミュンヘン会合はこうした悲観的な「閉塞感」に包まれていたようだ。

「閉塞感」といえば、今週は産経新聞に「この閉塞感、何とかならんか」と題し、米中露など世界各地の内政が似たような「閉塞」状態にあるというコラムを書いた。詳細はWorldWatchをご一読願いたいが、歴史を振り返れば、「閉塞感」の後には、往々にして「破壊願望」が来る。これが筆者の最近の懸念の種である。

「もしトラ」で世界はどうなるのか、筆者は次のような懸念を抱いている。これらが全て間違いであれば良いのだが・・・。

  • トランプ現象の本質は「少数派に転落する白人の逆襲」で外交の比重は低下する
  • 2期目トランプの最大関心事は「影の政府」の政治家・官僚に対する報復となる
  • トランプの対露宥和政策でNATO同盟は弱体化し、欧州「第二」冷戦に敗北する
  • 中東では米国の軍事関与が低下し、不安定が続き、イランは核武装に向かう
  • インド太平洋では、米中緊張が続くが、QUADや同盟国の連携は停滞する・・・・

最後は、いつもの中東・パレスチナ情勢だ。

  • 今のところ、米・イランは相互抑止が効いており、ともに直接戦闘を回避している
  • イランも必死で親イラン武装勢力の「暴走」を抑えようとしているが、いつまで続くか
  • ガザ地区ラファでの戦闘激化は続く、ネタニヤフもハマースも失うものはないからだ

今週はこのくらいにしておこう。

2024年 重要日程レポート8【2月19日版】

<今週以前から続く会議>

1月22日‐3月8日 第60回大陸棚限界委員会(ニューヨーク)
2月12日‐2月23日 ICAO、第231回委員会段階(モントリオール)
2月12日‐3月1日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第74回会合(ジュネーブ)
2月12日‐3月29日 ICAO(国際民間航空機関)第225回会議(モントリオール)
2月16日‐2月18日 ミュンヘン安全保障会議

2月

<2月19日‐2月25日>

19日 EU外相理事会(ブリュッセル)
19日 国際司法裁判所(ICJ)が「イスラエルによるパレスチナ占領」巡り公聴会
19日 日ウクライナ経済復興推進会議(東京)
19日 軍縮委員会、組織会議(ニューヨーク)
19日 12月の機械受注(内閣府)
19日‐2月23日 UNEP、オープンエンド常設代表委員会、第6回会合(ナイロビ)
19日‐2月23日 女性差別撤廃委員会会期前作業部会第89回会合(ジュネーブ)
19日‐3月1日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会 作業部会Bおよび非公式・専門家会合、第60回会合(ウイーン)
19日‐3月1日 強制失踪委員会第26回会合(ジュネーブ)
19日‐3月15日 平和維持活動特別委員会とその作業部会、実質会合(ニューヨーク)
20日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
20日 中国人民銀行が最優遇貸出金利(LPR)発表
20日‐2月28日 国際連合憲章および国際連合の役割強化に関する特別委員会(ニューヨーク)
21日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会・非金融政策(バーチャル会議)
21日 メキシコ2023年12月小売・卸売販売指数発表
21日 経団連中国地方経済懇談会
21日‐2月22日 G20外務相会合(ブラジル・リオデジャネイロ)
22日 メキシコ2023年第4四半期GDP発表
22日 OECD2023年第4四半期G20貿易統計発表
22日 香港2024年1月CPI発表
23日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ゲント)
24日 米共和党サウスカロライナ州予備選
25日‐2月29日 EU外相理事会・(貿易)(アブダビ)
25日 カンボジア上院選
25日 セネガル大統領選
25日 ベラルーシ議会選

<2月26日‐3月3日>

26日 イスラエル中銀金融委員会会合
26日‐2月27日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
26日‐2月29日 WTO閣僚会合(MC13)(UAE・アブダビ)
26日‐3月1日 UNEP、国連環境総会、第6回会合(ナイロビ)
26日‐3月1日 WFP理事会第1回定例会合(ローマ)
26日‐3月3日 ジュネーブ国際自動車ショー報道公開(一般公開は当月28日‐3月3日)
26日‐4月5日 人権理事会、第55回会議(ジュネーブ)
27日 メキシコ1月貿易統計発表
27日 米ミシガン州で民主・共和両党予備選
27日‐2月29日 エイラート・エイロット第10回再生可能エネルギー会議2024(イスラエル・エイラート)
27日‐3月1日 第55回統計委員会(ニューヨーク)
28日 米国2023年第4四半期GDP(改定値)発表
28日 香港2024~2025年度財政予算案発表
28日‐2月29日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ブラジル・サンパウロ)
29日 1月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)

3月

1日 ユーロスタット、1月失業率発表
1日 香港1月小売統計発表
1日 ブラジル2023年第4四半期GDP発表
1日 イラン国会選
2日 米国大統領予備選挙(共和党:アイダホ州、ミズーリ州)
3日 米国大統領予備選挙(共和党:ワシントンDC)
3日 トルコ2月CPI発表
4日 米国大統領予備選挙(共和党:ノースダコタ州)
4日 20年米大統領選介入事件巡るトランプ氏の初公判(ワシントン)
5日 米国大統領予備選挙「スーパーチューズデー」(民主党・共和党:アラバマ州、アーカンソー州、カリフォルニア州、コロラド州、メーン州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、バーモント州、バージニア州、米領サモア、民主党:アイオワ州、共和党:アラスカ州)
6日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
6日 メキシコ2月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 メキシコ2月CPI発表
7日 台湾2月CPI発表 
7日 米国1月貿易統計発表
7日 熊本県知事選告示
7日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見、フランクフルト)
8日 ユーロスタット、2023年第4四半期実質GDP成長率発表
8日 米国2月雇用統計発表
10日 ポルトガル議会選挙
12日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
12日 米国2月CPI発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 インド2月CPI統計発表
12日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ジョージア州、ミシシッピ州、ワシントン州、民主党:北マリアナ諸島、海外民主党員、共和党:ハワイ州)
13日 トルコ1月国際収支統計発表
14日 米国2月小売統計発表
15日 米国大統領予備選挙(共和党:北マリアナ諸島)
15日 トルコ2月中央政府予算
15日 フランス2月CPI発表
16日 米国大統領予備選挙(共和党:グアム)
17日 ロシア大統領選挙
18日 ユーロスタット、2月CPI発表
19日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:アリゾナ州、フロリダ州、イリノイ州、カンザス州、オハイオ州)
19日‐3月20日 米国FOMC、経済見通し発表
19日‐3月21日 ASEANゲーミングサミット(フィリピン)
20日 三者社会サミット(ブリュッセル)
20日‐3月23日 繊維製品の展示会(ジャカルタ)
21日 米国2023年第4四半期国際収支統計発表
21日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
21日‐3月22日 WTO一般理事会
22日 ロシア中央銀行理事会
23日 トルコ中銀金融政策会議
23日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ルイジアナ州、民主党:ミズーリ州)
27日 米国2023年第4四半期対外資産負債残高統計発表
27日 メキシコ2月貿易統計、雇用統計発表
28日 米国2023年第4四半期GDP(確定値)発表
29日 CIS経済理事会、第15回CIS国際経済フォーラム(場所未定)
31日 米国通商代表部(USTR)2024年外国貿易障壁報告書(NTE)提出期限
3月上旬 中国1~2月貿易統計発表
3月中旬 スロバキア大統領選挙
3月中旬 中国1~2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
3月上旬 第14期全国人民政治協商会議第2回全体会議(北京)、第14期全国人民代表大会第2回全体会議(北京)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問