外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2024年2月13日(火)

外交・安保カレンダー(2月12日-18日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


世界各地で政治が大きく動いているというのに、今週日本では「政治とカネ」等に関する衆議院予算委員会集中審議を始め、「政局に発展しかねない状況」が続いている、かのように日本のメディアは報じている。本当なのかね?あの国会審議の「揚げ足取り」質問と「のらりくらり」答弁は今も全く変わらないではないか。

うーん、こんなことばかりしてて良いのかね?本当は岸田首相にもっと外交をやってもらいたいのだが・・・。それはともかく、久し振りで今回は、先週から今週にかけて起きた興味深いニュースについてのコメントから始めよう。今週は14日にインドネシアの大統領選挙という重要イベントがあるが、これについては来週コメントする。

  • トランプ関連裁判と連邦議会の混乱

トランプ氏が「大統領免責」を主張する裁判でDC控訴審は訴えを認めなかった。最高裁への上告の期限は2月12日で、トランプ弁護団は上告を決めたという。この件については先週のニッポン放送で「おそらくトランプは生き残る。選挙をやらないと結果が出ないから、今回最高裁はあまり踏み込まないのではないか」とコメントした。

いくら最高裁で保守系判事が多数とはいえ、「大統領は未来永劫免責」などという主張は、普通であれば、認めがたいものだ。実際に控訴審は3人の判事全員一致でトランプ氏の主張を退けたのだが、そこはアメリカだから何が起きるか分からない。でも、ここでトランプの主張を認めたら、最高裁の権威は失墜するのではないかね?

ちなみに、トランプが大統領在任中にNATOのある加盟国首脳に対し、軍事費を適切に負担しなければロシアが攻撃してきても米国は支援せず、むしろ「好きに振る舞うようロシアをけしかけてやる」と伝えた点につき、NATO加盟国が反発している。バイデン政権も「低劣で正気と思えない」と非難したそうだが、その通りだと思う。

  • Tカールソンの露大統領インタビュー

カールソンも実にしぶとい男だと思う。不愉快だからまだ全編視聴はしていないが、産経新聞などの報道を纏めれば、プーチンは次の通り述べたそうだ。

〇ウクライナ戦争は「ネオナチ思想」を根絶するための戦いで、欧米は「ロシアを騙してきた」「ソ連崩壊後のロシアは欧米側の一員として迎え入れられることを期待していたが、そうはならなかった」、逆に「欧米側はロシアとの約束を破って北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を進め、ウクライナまで将来的に加盟させようとした」

〇米国は「2014年のウクライナ政変を主導」して当時の親露派政権を「違法クーデター」で崩壊させた、「ウクライナは東部紛争の解決策を定めた合意も履行しなかった」、欧米側がウクライナ支援を停止すれば戦争は「数週間で終わる」、米国はウクライナに「対露交渉に応じるよう働きかけるべきだ」

何のことはない。新しい事実は全くない、ということはプーチンに利用されただけだろう。FOXニュースを馘になった元アンカーが「生き残り」のため「起死回生」の手を打ったのだろうが、それにしても、あまりに節操のない、「ジャーナリスト」の風上にも置けない輩ではないか。日本にもこのような報道関係者がいるかどうかは知らないが・・。

  • パキスタン総選挙の混乱

選挙で野党系が過半数を取れないものの第一党になったことで、政治的混乱は続くだろう。ニッポン放送では「パキスタンも民主主義だけでは食えない。軍部からすれば「これではダメだ」ということで、民主制と軍政の堂々めぐりを繰り返している、不幸と言えば不幸な国」だとコメントした。今後パキスタンが安定することを祈りたい。

  • ウクライナ大統領が国軍総司令官を解任

政治は結果責任である。ニッポン放送でも「2人には確執があったのかも知れないし、結果責任を軍人が取るのは仕方がないとしても、このままだとロシアの思うつぼ」であるとコメントした。米議会のウクライナ支援法案もトランプに阻止されているが、米議会の良識を信じたいものである。

  • 春節でも回復しない中国経済

最近中国の専門家とゆっくり話す機会があり、中国経済の現状を理解できた。やはり現地に住む人の意見は貴重である。東京にいては分からない。筆者の結論は、中国経済にはまだ「成長の余地」があるが、「共産党指導」の維持を至上命題とする政府の「マクロ経済理論に反する諸政策」がその芽を摘んでいる、ということだ。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

2月13日火曜日 米加外相会談

        米、イスラエル、エジプト、カタル諜報機関トップがカイロで会合

2月14日水曜日 WTO、総会開催

        ヨルダン国王、カナダ訪問

        米主導のウクライナ・国防コンタクトG会合、ブラッセルで開催

        トルコ大統領、エジプト訪問

        インドネシア、大統領選挙、総選挙

2月15日木曜日 NATO国防大臣会合(ブラッセル)

        ブラジル大統領、エジプト訪問(16日まで)

2月16日金曜日 ロシア中央銀行、金利決定

2月17日土曜日 アフリカ連合、首脳会議開催(エチオピア、18日まで)

最後は、いつもの中東・パレスチナ情勢である。

  • これまで米・イランはともに直接戦闘を回避してきたが、1月28日の攻撃で米兵が3人も死亡すれば、話は別だ。米軍は「報復」する以外の選択肢がなかったと思う。
  • その意味で先週のバグダッドでの米軍無人機による親イラン武装組織司令官の殺害はイランに対する微妙なメッセージが込められている。
  • すなわち、「米側はイラン革命防衛隊や親イラン武装勢力の動きを把握しており、今回は意図的に親イラン武装組織の司令官のみピンポイントした」のだ、ということ。
  • だから、「今も対イラン直接戦闘は望まない」が、「再び米兵が死ねば、今度はイランに直接攻撃する」というメッセージ。問題はイランに統制力があるかどうかだ。
  • ガザ地区ラファでの戦闘激化の可能性が高まっている。ネタニヤフは失うものがない。彼にはラファに立て籠もるハマースの主力部隊を殲滅するしか出口がないのだ。

今週はこのくらいにしておこう。

2024年 重要日程レポート7【2月12日版】

<今週以前から続く会議>

1月22日‐3月8日 第60回大陸棚限界委員会(ニューヨーク)
1月29日‐2月16日 女性差別撤廃委員会、第87回会合(ジュネーブ)
2月5日‐2月14日 第60回社会開発委員会(ニューヨーク)

2月

<2月12日‐2月18日>

12日 インド2023年12月鉱工業生産指数発表
12日 インド2024年1月CPI統計発表
12日 国民民主党大会(都内)
12日‐2月13日 国連ウィメン理事会第1回定例会合(ニューヨーク)
12日‐2月16日 人権理事会、通信作業部会、第33回会合(ジュネーブ)
12日‐2月16日 UNCITRAL、第2作業部会(紛争解決)、第79回会合(ニューヨーク)
12日‐2月16日 あらゆる側面における小型武器および軽兵器の不正取引を防止し、これと闘い、根絶するための行動計画の実施における進捗状況を検討するための国際連合会議、準備委員会(ニューヨーク)
12日‐2月23日 ICAO、第231回委員会段階(モントリオール)
12日‐3月1日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第74回会合(ジュネーブ)
12日‐3月29日 ICAO(国際民間航空機関)第225回会議(モントリオール)
13日 英国労働市場統計(2023年10~12月)発表
13日 米国1月CPI発表
13日 フランス2023年第4四半期失業率発表
13日‐2月14日 国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会(パリ)
14日 大統領選挙(インドネシア)
14日 英国1月CPI発表
14日‐2月15日 IFAD管理理事会 第47回会合(ローマ)
15日 イスラエル1月CPI発表
15日 米国1月小売売上高統計発表
15日 英国2023年第4四半期GDP成長率(速報値)発表
15日 植民地国・人民への独立付与に関する宣言の実施状況に関する特別委員会、組織会期および2024年会期の前半部分(ニューヨーク)
15日 石油製品価格調査(経産省)
15日 23年10月‐12月期のGDP速報値(内閣府)
16日 フランス1月CPI発表
16日 ロシア中央銀行理事会
16日‐2月18日 ミュンヘン安全保障会議

<2月19日‐2月25日>

19日 EU外相理事会(ブリュッセル)
19日 国際司法裁判所(ICJ)が「イスラエルによるパレスチナ占領」巡り公聴会
19日 日ウクライナ経済復興推進会議(東京)
19日 軍縮委員会、組織会議(ニューヨーク)
19日 12月の機械受注(内閣府)
19日‐2月23日 UNEP、オープンエンド常設代表委員会、第6回会合(ナイロビ)
19日‐2月23日 女性差別撤廃委員会会期前作業部会第89回会合(ジュネーブ)
19日‐3月1日 強制失踪委員会第26回会合(ジュネーブ)
19日‐3月15日 平和維持活動特別委員会とその作業部会、実質会合(ニューヨーク)
20日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
21日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会・非金融政策(バーチャル会議)
21日 メキシコ2023年12月小売・卸売販売指数発表
21日 経団連中国地方経済懇談会
21日‐2月22日 G20外務相会合(ブラジル・リオデジャネイロ)
22日 メキシコ2023年第4四半期GDP発表
22日 OECD2023年第4四半期G20貿易統計発表
22日 香港2024年1月CPI発表
23日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ゲント)
25日‐2月29日 EU外相理事会・(貿易)(アブダビ)

<2月26日‐3月3日>

26日 イスラエル中銀金融委員会会合
26日‐2月27日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
26日‐2月29日 WTO閣僚会合(MC13)(UAE・アブダビ)
27日 メキシコ1月貿易統計発表
27日‐2月29日 エイラート・エイロット第10回再生可能エネルギー会議2024(イスラエル・エイラート)
28日 米国2023年第4四半期GDP(改定値)発表
28日 香港2024~2025年度財政予算案発表
28日‐2月29日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ブラジル・サンパウロ)

3月

1日 ユーロスタット、1月失業率発表
1日 香港1月小売統計発表
1日 ブラジル2023年第4四半期GDP発表
2日 米国大統領予備選挙(共和党:アイダホ州、ミズーリ州)
3日 米国大統領予備選挙(共和党:ワシントンDC)
3日 トルコ2月CPI発表
4日 米国大統領予備選挙(共和党:ノースダコタ州)
5日 米国大統領予備選挙「スーパーチューズデー」(民主党・共和党:アラバマ州、アーカンソー州、カリフォルニア州、コロラド州、メーン州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、バーモント州、バージニア州、米領サモア、民主党:アイオワ州、共和党:アラスカ州)
6日 メキシコ2月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 メキシコ2月CPI発表
7日 台湾2月CPI発表 
7日 米国1月貿易統計発表
8日 ユーロスタット、2023年第4四半期実質GDP成長率発表
8日 米国2月雇用統計発表
10日 ポルトガル議会選挙
12日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
12日 米国2月CPI発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 インド2月CPI統計発表
12日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ジョージア州、ミシシッピ州、ワシントン州、民主党:北マリアナ諸島、海外民主党員、共和党:ハワイ州)
13日 トルコ1月国際収支統計発表
14日 米国2月小売統計発表
15日 米国大統領予備選挙(共和党:北マリアナ諸島)
15日 トルコ2月中央政府予算
15日 フランス2月CPI発表
16日 米国大統領予備選挙(共和党:グアム)
17日 ロシア大統領選挙
18日 ユーロスタット、2月CPI発表
19日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:アリゾナ州、フロリダ州、イリノイ州、カンザス州、オハイオ州)
19日‐3月20日 米国FOMC、経済見通し発表
19日‐3月21日 ASEANゲーミングサミット(フィリピン)
20日 三者社会サミット(ブリュッセル)
20日‐3月23日 繊維製品の展示会(ジャカルタ)
21日 米国2023年第4四半期国際収支統計発表
21日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
21日‐3月22日 WTO一般理事会
22日 ロシア中央銀行理事会
23日 トルコ中銀金融政策会議
23日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ルイジアナ州、民主党:ミズーリ州)
27日 米国2023年第4四半期対外資産負債残高統計発表
27日 メキシコ2月貿易統計、雇用統計発表
28日 米国2023年第4四半期GDP(確定値)発表
29日 CIS経済理事会、第15回CIS国際経済フォーラム(場所未定)
31日 米国通商代表部(USTR)2024年外国貿易障壁報告書(NTE)提出期限
3月上旬 中国1~2月貿易統計発表
3月中旬 スロバキア大統領選挙
3月中旬 中国1~2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
3月上旬 第14期全国人民政治協商会議第2回全体会議(北京)、第14期全国人民代表大会第2回全体会議(北京)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問