外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年4月19日(金)

デュポン・サークル便り(4月19日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週まで気温が乱高下していたワシントン。ワシントン市内が観光客で溢れる桜祭りも、先週末のパレードと市内で行われる日本風のお祭りを以って終了。以来、にわか雨(時にはゲリラ豪雨)に悩まされつつも、日によっては初夏を思わせるお天気が続いています。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

先週は、4月9~11日の岸田総理による公式訪米、日米首脳会談、日米比首脳会談と、バイデン政権のインド太平洋政策のハイライトとなるイベントが続きました。岸田訪米は日本の総理による公式訪米としては2015年以来9年ぶり(!)でしたが、ホワイトハウスでの歓迎式典に始まり、日米両国首脳による共同記者会見、バイデン大統領夫妻主催ホワイトハウス晩餐会、議会合同本会議での総理演説、ハリス副大統領夫妻・ブリンケン国務長官夫妻共催午餐会・・・と大行事が目白押し。想像を絶する激務だったに違いない国家安全保障会議(NSC)の日本担当をしている私の友人は、昨日ちょっと用事があってメールをしたら、既に1週間のリフレッシュ休暇を取っていました。

総理のアメリカ訪問の各行事での成果などについては既に報道されつくした感がありますが、私が一番に残っているのは総理の議会合同本会議での演説。岸田総理は、普段、日本語で話す時も、常に言葉を慎重に選ばれているためでしょうか、ゆっくりとした口調が印象的です。これが英語での演説、しかも1時間近い演説・・ということで、外国人の英語を聞きなれない議員もかなりの数いる議会での演説、どうなるかなと思っていたのですが、意外なことに、そのゆっくりとした口調が「聴き取りやすい。すごい練習したんじゃない?」と好印象。冒頭で裕子夫人を持ち上げて愛妻家ぶりをアピール、そのあと、普通のアメリカ人なら一度は必ず観たことがある原始人家族のドタバタした日常を描いたアニメ「フリンストーン一家」などに言及し、これまであまり日本と接点がない議員でも聞き入りやすい導入・・とさすが、ここ一番の演説は、原稿を書く方も、力の入れ方が違うなと思った次第です。そしてなにより、「アメリカの指導力を世界は必要としています。しかし、その責任はアメリカ一国のみで背負うべきものではありません。日本も共にその責務を担います」『アメリカ・ファースト』路線をひた走り、対ウクライナ支援をめぐりジョンソン下院議長といまだにガチンコ対決している下院共和党保守派に対するメッセージとなったでしょう。演説後、事前に配布されていた原稿にサインを求めて総理の前に長い列ができていたのが、演説が非常に好感を以って受け入れられていたという何よりの証拠でしょう。

ただ、それ以上に印象に残ったのは演説する総理の後ろに座っていたハリス副大統領とジョンソン下院議長の表情。「下院本会議場を使った選挙演説」とまで言われた、先月のバイデン大統領の一般教書演説の時とは対照的に、ジョンソン下院議長もハリス副大統領も常に満面の笑顔。特にジョンソン下院議長のあんな穏やかな顔を見たのは、下院議長に就任して以来初めてじゃないかと思うほど。自称「unifier」のバイデン大統領よりも、岸田総理の方がunifierだなぁ、と思ったエピソードでした。

とはいえ、そんな雰囲気は、総理の帰国と共に明後日の彼方に吹っ飛び、既にワシントンは内政ではマヨルカス国土安全保障長官弾劾裁判、対ウクライナ・イスラエル・台湾軍事支援法案の行方などで早くもバトルが再開。さらに週末のイランによるイスラエル攻撃で、これまでイスラエルーハマス間の武力衝突が中東全域に広がるのを必死で阻止しようとしてきたアメリカをはじめとする各国の努力が水泡に帰しかねない事態に発展してしまいました。毎朝起きると事態が動いており、予断を許さない緊迫した状況です。

これだけでも十分、盛沢山だというのに、さらに今週からニューヨークで、トランプ前大統領が愛人に対する口止め料の支払いに関連して不正会計処理をしていた疑いをめぐる刑事裁判が公判入り。なんと言っても被告がトランプ前大統領という、立ちすぎているキャラであることもあり、12人の陪審員を選ぶところでかなりの時間がかかっていますが、来週には裁判入りしそうな感じです。そうすると、トランプ前大統領は週4日間、被告人としてこのニューヨークの法廷に出廷しなければいけなくなるため、選挙運動への影響は甚大。いら立ちをソーシャル・メディアで爆発させることはほぼ確実で、その余波がどのように大統領選挙に影響するかも目が離せなくなります。

このようにニュースにおわれる毎日ですが、頑張ってフォローしていきたいと思います。

(了) 


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員