外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年2月1日(火)

デュポン・サークル便り(2月1日)

[ デュポン・サークル便り ]


米国東海岸は、南はフロリダから北はマサチューセッツ、メイン州に至るまで、大寒波と積雪に襲われています。なんと、今週末はサウスカロライナ州で雪が降り、ノースカロライナ州も気温は氷点下。フロリダも氷点下すれすれの気温が続いており、ある友人は、「寒さを逃れるために来週、フロリダに旅行を計画していたけれど、やめようかな」とぼやいています。日本では大学受験シーズン真っ只中かと思いますが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

今週もアメリカは内政、外政ともに話題に事欠きません。外政では引き続き、ウクライナ情勢を巡って米ロのガチンコ対決が続いています。今週はついに、米ロの外交対決の場は国連安保理事会に移動。「ウクライナを侵攻する予定はない」と主張する一方で、ウクライナとの国境地帯に着々と軍を展開、負傷者向けと思われる血液の備蓄も始めつつ、NATOへのウクライナ加盟を認めないことをNATOに求めるという主張から一ミリも立場を変えないロシア。バイデン政権は当初、このようなロシアに対して「ウクライナに軍事侵攻した場合、非常に重い経済制裁がロシアに課されることになる」としてロシアへのけん制を試みています。ですが、ロシアはどうも、「ウクライナのNATO加盟阻止」という目的を達成するためには、経済制裁を耐える意欲満々らしい、という分析が、この数日、ワシントン界隈で出回っています。日本にとっても、今回のウクライナ情勢をめぐり、米ロがどのような外交的解決策にたどり着くかは、「ウクライナ」をインド太平洋地域の別の場所に置き換え、「ロシア」を「中国」に置き換えた場合、非常に気になるところです。

ですが、引き続き、バイデン政権は内政でも悩みの種が満載。先週末、最高裁のリベラル派判事の長老格のスティーブン・ブライヤー判事が今夏に引退することを表明。現在、ジョン・ロバーツ最高裁首席判事を含め、最高裁判事の過半数が共和党政権時代に指名され、就任した保守系判事となり、その結果、女性の中絶の権利を含め、重要な社会問題に関係する問題を巡る判決が覆される危機に瀕している現在のアメリカ。バイデン政権期間中に、リベラル派判事の長老のブライヤー判事の後任の最高裁判事を指名することが、バイデン政権にとっては重要課題でした。今回、期せずして、そのチャンスを得たバイデン政権。バイデン大統領は、早くも2月には後任の最高裁判事を指名する意欲を見せています。それだけではなく、白人男性のブライヤー判事の後任に黒人女性判事を指名するつもりであることを明言。後任に誰が指名されるのかに注目が集まっています。

また、昨年16日の連邦議事堂襲撃事件でトランプ大統領が果たした役割などを追求するために下院特別情報委員会内で立ち上げられた調査委員会の活動も注目を集めています。先週から今週にかけて特に注目を集めたのは、スティーブ・バノン氏、イバンカ・トランプ女史をはじめ、トランプ大統領の元側近が軒並み下院特別情報委員会の調査に協力しない姿勢を見せている中、ペンス前副大統領のスタッフが、地道に委員会の調査に協力している、というニュースです。ペンス前副大統領の首席補佐官で、昨年16日の連邦議事堂襲撃事件が発生した時に、ペンス前副大統領と行動を共にしていたマーク・ショート元副大統領首席補佐官が、先週、下院特別情報委員会からの召喚状に答える形で議会で証言を行っていた、という報道をCNNをはじめ、複数のメディアでありしました。あの事件以降、トランプ前副大統領とペンス前副大統領の間に隙間風が吹いているという見方が出ていましたが、この報道は図らずも、そのような見方を裏付けるものとなりました。

そうかと思えば、相変わらず感染力の強さを見せつけるオミクロン株に加えて、新たにオミクロン株の亜種が発見され、相変わらず「ポスト・コロナ」に移行する方向で舵を切れないバイデン政権に対して、超党派の全米州知事グループが、コロナを「パンデミック」から、インフルエンザなど、他の伝染病、いわゆる「エンデミック」として扱い、共生する方向に方針を転換することで、通常の生活に戻るための道筋を明確にするようホワイトハウスに直訴。今後、アメリカでは「パンデミックからエンデミックへ(from pandemic to endemic)」という掛け声が大きくなってくるかもしれません。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員