外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年1月21日(金)

デュポン・サークル便り(1月21日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、今週17日(月)がマーティン・ルーサー・キング・デーという祝日だったこともあり、短い1週間でした。しかも、20日(木)は、2週間前に引き続き再び雪で、ワシントン近郊でも休校を決める学校が続出。子供は雪で休校でも、親は働かないといけない共働き家庭にとっては頭の痛い季節が本格的に到来しました。東京ではコロナウイルス感染者数が連日、最多記録を塗り替えているようですが、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

バイデン政権の外交政策がウクライナ情勢をめぐる米露交渉が続く中で正念場を迎える中、国内は相変わらず「コロナ」で盛り上がっています。特に今週は、今月15日に新しくバージニア州知事に就任した共和党のグレン・ヨンキン知事が、週明けの17日にバージニア州議会で初めて行った「バージニア州版一般教書演説」の中で、以前ラルフ・ノーサム前知事が州内の全ての学齢期の子供に対し出した学校でのマスク着用を義務付ける知事命令を撤回すると発表して以来、私が住んでいる北部バージニア州の自治体は大騒ぎ。各自治体の教育委員会を巻き込む大騒動に発展しており、一部の自治体はバージニア州地方裁判所に「ヨンキン知事の新しい知事令は違法だ」として訴訟を起こす事態にまで発展しています。

ですが、このヨンキン知事の州議会での演説、全体を通じて読むと、「民主党でもなく共和党でもなく、チーム・バージニア州」という超党派精神を強調しつつ、州内のインフラや物価など、有権者の日常の生活に直結する問題についてのアプローチについて訴えた、非常によくできた演説です。ヨンキン知事は、そもそも、昨年、知名度で圧倒的に劣っていた劣勢を跳ね返し、トランプ前大統領支持層の支持を引き寄せつつ、選挙戦ではトランプ色を完全に封印して奇跡の勝利を収めた、共和党候補のお手本と言える選挙戦を展開した御仁。もし、このトーンを4年間維持して、大過なく4年間の任期を勤め上げることができれば、「次」に向けた展開が見えてくるかもしれません。というのはやや時期尚早でしょうか。

このような状況の中、120日、バイデン政権は発足1周年を迎えました。ですが、バイデン政権を取り巻く状況は厳しいままです。昨19日には、現在ワシントンで議論が白熱している「投票権行使法(Voting Rights Act)」をめぐり、上院で、この法案に限り単純過半数の51票で法案を成立させることを可能にする議事進行手続の変更を認めるかどうかをめぐっての採決の際、民主党から2名の上院議員が造反して共和党議員と共に反対票を投じたため、実質的にこの法案が上院で可決される道は閉ざされました。

また、コロナウイルス対応でもオミクロン株が全米で拡散する中、自宅で使えるコロナ検査キットの供給量がひっ迫、一時は薬局やスーパーなど、至るところで品切れが続出。このどさくさに紛れて、通常であれば20ドルそこそこで購入できる検査キットの価格を4~5倍近くに引き上げる悪徳業者も登場。バイデン政権が、国民に無料で供給できる検査キットの供給量を増やすことを発表したことで、ようやく検査キットをめぐるドタバタは収束を見せつつありますが、これもコロナ対応に苦慮し続けるバイデン政権の状況を象徴する出来事でありました。

119日、政権発足1周年を控えたバイデン大統領は、単独記者会見に登場。2時間近く記者からの質問をこなしましたが、外交政策、国内政策ともに行き詰まり感が続く中でストレスを抑えきれなくなったのか、長らく封印してきた共和党に対する舌鋒鋭い批判が再び全開。トランプ前大統領が、退任後も共和党内で圧倒的な影響力を持っていることを皮肉り、「共和党は一人の人間の影響力におびえている」と批判。その一方で、ウクライナ情勢について聞かれた際に「ロシアはたぶん、ウクライナに向けて動くと思う」といいつつ、ロシア軍がウクライナとの国境を越えた場合に米国がどう対応するかについて曖昧な発言をしたため、20日にその釈明に追われるという、なんともみっともない展開となってしまいました。国内ではコロナ、国外ではロシア、とまさに内憂外患のバイデン政権。一体、どのようにこれから事態を打開していくのでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員