外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年12月6日(月)

デュポン・サークル便り(12月6日)

[ デュポン・サークル便り ]


1125日のサンクスギビングの前後、休日でほとんど開店休業状態だったアメリカ。サンクスギビング休暇直後から、オミクロン株によるコロナ感染再拡大関連のニュースが大爆発。すでにアメリカでは、18歳以上の人はワクチン3本目のブースターを接種することが推奨されています。ところが、侮れないのがこのブースターによる副作用。私は、ブースター直後、風邪のような症状を微熱と共に発症し、その症状が治まったあとも、なんとなくけだるく、疲れやすい日が続いています。私のアシスタントはブースター接種後、2日間、完全にダウン。カリフォルニア州在住の私の旧友は、ブースター接種後、ほぼ1週間近く寝込んだそうです。

そんな落ち着かいない雰囲気の中で、感謝祭後のワシントン政治は再開しました。オミクロン株は、感染のスピードや、感染後重症化する割合など、まだまだデータが揃わないためわからないことが多い変異株です。が、各国が再び入国規制を強化するのに伴い、バイデン政権も、これまでは米国到着72時間前に受ければよいとしていたPCR検査のタイムラインを、米国到着24時間前に繰り上げました。それでも、PCR検査の結果が陰性で、且つワクチン接種済みの人は、アメリカ入国後、自己隔離期間を置く必要なくすぐに自由に行動できます。このあたりが、外国人の新規入国を、再度、禁止した日本とは対照的な対応になっています。

オミクロン株で忙しいのはもちろん、サンクスギビング休暇の前後は、その他の内政案件でも忙しい日々が続きました。まず、バイデン政権にとって一番の懸案だった12月第1週以降の連邦政府閉鎖は、123日(木)に、上下両院が2月半ばまで連邦政府支出に必要な予算を認める継続決議を可決したことで、なんとか回避することができました。とは言え、最悪の事態を先送りしただけというのが実情で、バイデン政権にとっては、まだまだ心休まらない日々が続きます。

またワシントンでは今、妊娠中絶の権利をめぐり最高裁がどのような判断を下すかが関心の的になっています。最高裁は1973年に「Roe vs Wade」という判例で、合衆国憲法は妊娠中の女性が、政府から過剰な介入を受けることなく、中絶を選択する権利を保障している、という歴史的な判決を下しました。この、女性が妊娠中絶をする権利は、1992年にも、「Planned Parenthood vs Casey」という判例で維持されました。ですが、ここに来て、最高裁が「Roe vs. Wade」で最高裁が下した判断を覆し、妊娠中絶に対する厳しい規制を各州が州法のレベルで課すことが可能な状態が生まれてしまうのではないかという懸念が広がっているからです。このため、サンクスギビング開けの先週は、最高裁前で妊娠中絶賛成派と反対派がそれぞれ、大規模なデモ活動を繰り広げました。

アメリカでは、女性の妊娠中絶の権利は、世論を二分する大問題。トランプ政権期にリベラル派最高裁判事の長老格だったルースベーダ―・ギンズバーグ判事が死去したこともあり、結果的にトランプ大統領保守派の判事3名を次々と最高裁判事に就任させることに成功。この結果、基本的に妊娠中絶に慎重派な保守派の判事が現在の最高裁では多数派を占めています。そんな中、ブッシュ()政権時代に最高裁主席判事に就任したジョン・ロバーツ判事が、この問題を最高裁でどのような判断に持っていくかが注目されています。

最後に、ここにきて急浮上してきたのが「カマラ・ハリス副大統領=仕えにくい上司」説です。124日付ワシントン・ポスト紙では、年末を区切りに、ハリス副大統領の報道官他、主要スタッフ4人が辞任することを引き合いに、副大統領のスタッフを長年務められる人は皆無だと報じています。さらに同紙は、首席補佐官をはじめ、上院議員時代からン十年の付き合いの側近でホワイトハウスや閣僚主要ポストを固めているバイデン大統領と対比し、「ハリス副大統領のスタッフが長続きしないのは、彼女のリーダーシップ・スタイルに疑義を呈させ、大統領としての資質も問われる」と報じました。ただ、このような報道に対しては、「彼女が男性だったら、単に『難しい上司』で終わっている話。彼女が女性だからここまで問題視される。ダブルスタンダードだ」という擁護論も根強く存在しており、実情は正直、よくわかりません。

自分が選んだ副大統領の資質まで疑問視され、バイデン大統領にとっては、逆風が続く中、クリスマス・シーズンの到来となります。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員