外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年9月22日(水)

デュポン・サークル便り(9月21日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、朝夕はかなり涼しくなり、日中も少しずつ湿度が下がって、ようやく秋に近づいてきました。日本ではこの週末は敬老の日の3連休でしたが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

先週ワシントンは連邦議会が揺れました。外交問題の焦点は米軍のアフガニスタン撤退問題でした。この問題に関する公聴会が上下両院の外交委員会で開催され、証人として出席したアントニー・ブリンケン国務長官と同委員会委員との間で、2日間に亘り、緊張したやり取りが続いたからです。

アフガニスタンからの米軍撤退については、撤退開始日のカブール空港がベトナム戦争終了時のサイゴン陥落を彷彿させる大混乱となったことから、「バイデン政権の米軍撤退が拙速だったのでは」「現地での情報収集が不十分だったのでは」「アフガニスタンで国軍が米軍撤退発表後2週間も経たずに総崩れとなったが、政権が崩壊することをなぜ予見できなかったのか」など様々な批判が出ていました。特に、共和党側からは、バイデン政権の外交政策チームに引責辞任を求める声まで上がりました。

このような状態の中で、912日に下院外交委員会で、翌13日には上院外交委員会でそれぞれ証言を行ったブリンケン国務長官は、一貫してバイデン政権の決定を擁護。「さらに米軍が駐留を続けたとしても、アフガニスタン国軍や政府の政権維持能力が高まるという証拠はない」「最も悲観的な情勢分析でも、米軍がアフガニスタン国内に残っている間に、あれほど早く政権が崩壊することは予想されなかった」と主張。「我々(バイデン政権)は(米軍撤退の)期限は(前政権から)引き継いだが、計画までは継承しなかった」とも述べ、このような事態になったそもそもの発端はタリバンとの間で米軍撤退に関する合意を結んだことだとして、タリバンが政権に戻る道筋をつけてしまったトランプ前政権を暗に批判しました。

これに対し、下院の公聴会は5時間余りも続き、ブリンケン国務長官の発言を遮って共和党議員がバイデン政権批判を続け、少なくとも2名の議員がブリンケン国務長官に辞任を要求するなど紛糾しました。上院の公聴会でも同様の緊張したやり取りは続き、米軍のアフガニスタン撤退がバイデン政権にとって大きな痛手となったことを改めて印象付けました。

過去20年間、米国をはじめとする国際社会がタリバン政権追放後のアフガニスタン再建に多大な努力を払ったにも拘わらず、米軍撤退発表後、アフガニスタン政府はあっけなく崩壊しました。この事実は同国政府・国軍に自助努力が欠けていたという現実を物語るとともに、「大国の墓場」と呼ばれるアフガニスタンという国の統治の難しさを反映しています。しかし、バイデン政権による米軍撤退の決定自体は世論調査でも国民の過半数の支持を得ているので、今後は撤退決定自体の是非はともかく、如何に撤退を進めたかについての批判が当面続くでしょう。

内政面では917日にワシントンの連邦議事堂前である抗議集会が開かれました。16日にトランプ前大統領支持派の一部が暴徒化して連邦議事堂に侵入した事件で現在起訴されている人々を支持するグループによるものです。この抗議集会に先立ち、集会参加予定者たちがSNSなどで集会前日16日深夜の議事堂侵入計画や、連邦議員誘拐計画につき話し合っていた事実を国土安全保障省が公開したため、議員や議会スタッフの間に動揺が走りました。また、DCの市長も、抗議集会参加者が暴徒化するのを未然に防ぐため、国防省に対し州兵動員を要請したようです。これが功を奏したかどうか定かではありませんが、17日の抗議集会は、集会参加者を圧倒的に上回る数の警察官及び州兵が議事堂を警備する中で行われ、幸い大きな騒動に発展することなく終了しました。

今週からは連邦議会が審議を本格的に再開、また忙しいワシントンの秋がやってきます。先週は、米英豪3か国がインド太平洋での防衛協力に関し合意し、オーストラリアの原子力潜水艦建造計画をめぐり米仏間では緊張が高まりました。バイデン政権は文字通り、休む間もなく、次から次へと降って湧く諸案件への対応に文字通り奔走しているようです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員