外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年5月7日(金)

デュポン・サークル便り(5月6日)  

[ デュポン・サークル便り ]


今週のワシントンは、春を通り越して夏の蒸し暑さを感じさせる天気が続いています。私の周りでは、コロナウイルスのワクチン接種を完了した人が少しずつ出てきました。私も、2度目の接種を5月12日に控えています。日本ではゴールデン・ウィーク中も外出規制となり、緊急事態宣言延長の可能性も言われているようですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

先週から今週にかけてのワシントンの最大の話題は2つ。どちらもコロナ対策関連です。一つ目は4月28日にバイデン大統領が初めて議会で行った演説です。通常、このような演説は1月の第3週目火曜日に「一般教書演説」として行われます。ですが、政権発足後最初の年は、政権発足後、最初の100日が経過したぐらいのタイミングで演説を行うのが慣例です。今年は特に政権発足直後から、コロナウイルス対策、景気刺激策、人種問題、警察改革、銃規制、移民制度改革・・・と様々な国内問題に全速力で取り組んできたバイデン大統領が何を言うかが注目されていました。

この演説、4月28日の午後9時から1時間余りにわたって行われましたが、目玉は「米国の家族計画」の発表でした。バイデン大統領は政権発足当初から、短期的にはコロナウイルス対策、中長期的にはアメリカ国内のインフラへの再投資や中産階級の再生に向けた様々な手当を政権の最優先課題と位置づけています。政権発足後早々にバイデン政権は、第一弾の措置として、コロナウイルスで打撃を受けた米国経済の立て直しや、雇用に苦しむ米国民への補助金給付、ワクチン接種の加速化などの短期的措置が盛り込まれた「米国救済計画」を発表しました。また、今年の3月末には第二弾として、国内インフラへの投資、雇用創出のための労働者訓練、共働き家庭にとって重要なベビーシッターや保育園、老人ホーム職員の給与引き上げなどを含む総額2兆ドルの「米国雇用計画」を発表しています。従って、4月28日の議会演説でバイデン大統領が概要を発表した「米国家庭計画」は、同政権による大型イニシアチブの第3弾となります。

今年2月に立法化された「米国救済計画」の歳出規模は1.9兆ドル、また、現在歳出規模の折衝が続いている「米国雇用計画」の歳出規模は2兆ドルですが、今回新たに発表された「米国家庭計画」の歳出規模は1.8兆ドルとなります。特に、「米国家庭計画」の中では、大統領選時にバイデン大統領と最後まで予備選挙で競ったバーニー・サンダース上院議員の公約である「大学教育の無償化」を提案しています。具体的には、現在小学校~高校までの公立教育の期間に「最低4年間を追加」し、更に「コミュニティ・カレッジ2年間の無償化」をも加えているのです。

また、4月28日の演説では「米国家庭計画」の概要発表に加えて、銃規制問題、移民問題、国民皆保険制度、警察改革など、過去の民主党政権が実現を目指してきた政策課題について次々と言及し、民主党穏健派の代表格というバイデン大統領のイメージを一掃。レーガン大統領が1980年代に掲げた「小さい政府」という国の在り方とは全く異なり、「大きな政府」こそが国民のセーフティ・ネットを提供するという政権の目標をぶち上げる演説となりました。

バイデン大統領は政府による巨額財政出動の財源に「法人税引き上げ」と「富裕層所得税率の引き上げ」から生まれる歳入を充てる、としているので、当然、共和党は猛反発しています。ですが、すでにアマゾン最高経営責任者のジェフ・ベゾスや、マイクロソフト共同創始者のビル・ゲイツなど、アメリカを代表するマンモス企業の「顔」ともいえる人々が揃って「法人税引き上げを支持する」声明を発表するなど、バイデン政権のアジェンダを支援する構えを見せています。しかし、「米国雇用計画」にしても「米国家庭計画」にしても、政策を実現するためには歳出法案を成立させる必要があります。バイデン政権の思惑通り財政出動ができるかどうかが注目されます。

日本のゴールデン・ウィーク期間中、もう一つ大きなコロナ関連のニュースは、バイデン大統領が「独立記念日(7月4日)までに、米国の成人の70%がコロナウイルス予防接種を少なくとも1回は受けている状況を達成」する新たな目標設定を発表したことです。アメリカでは、すでに今週前半、ファイザー社が12-15歳の未成年を対象にワクチン接種を行う緊急認可を連邦薬品局(FDA)に申請し、早ければ今週中にも認可が下りる可能性があることが報じられたばかりです。バイデン政権が掲げた新目標を達成するためには、なかなかワクチン接種を受けようとしない有色人種(特にアフリカ系アメリカ人)コミュニティーや35歳以下の若年層の間に、ワクチンの安全性についての理解を浸透させ、接種を働きかけることがどれくらいできるかがカギになります。政権の思惑どおりにワクチン接種が進めば、今年の独立記念日は「コロナウイルスからの自由万歳」も重なり、例年以上に、種々の行事が盛り上がりを見せるのは必至です。そうなれば、「脱コロナ」を実現した大統領として、バイデン大統領の支持率アップも間違いなしとなり、来年の中間選挙にも大きな影響を与えるでしょう。さて、今後、どうなるか、事態の推移を見守っていきたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員