ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2024.03.21

ワーキング・ペーパー(24-004E)Asset-Price Collapse and Macroeconomic Debt Overhang

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論

論文名:資産価格の崩壊とマクロ経済的過剰債務

金融危機には次のようなパターンが見られるといわれている。すなわち、資産価格の高騰が貸出ブームによって引き起こされている場合には、その後、相当の確率で資産価格が暴落することが多く、その結果、長く深い不況が引き起こされる。特に、その不況は生産性の低迷をともなうことが多い。本論文では、このような金融危機のパターンを説明し、政策分析にも使いやすい簡単な二期間モデルを提唱する。

モデルの構造は、リスクシフティング(リスク移転効果)による資産価格高騰のモデルと、デットオーバーハング(過剰債務)による不況を組み合わせたものである。銀行から資金を借りた企業は、その資金を使って不動産などの資産を購入するが、もし資産価格が上れば転売で利益を得られる。一方で、資産価格が下がれば借金を返さずに倒産し、資産価格下落による損失を銀行に被せる(シフトする)ことができる。資産価格下落のリスクを銀行にシフトできる、という(債務による資産購入の)性質を、リスクシフティングという。リスクシフティングの結果、借り手企業は強気になり、積極的に資産を購入するので資産価格を過剰に釣り上げる。その結果、過剰な高値になった資産価格は暴落しやすくなる。

資産価格が暴落すると、企業は借金で不動産などの資産を買っていたので、過剰債務ができる。過剰債務があると、企業の事業活動へのモチベーションが下がり、事業活動は停滞する。事業活動で努力をしても、成果はすべて借金の返済として銀行に取られるので、企業はモチベーションを失うからである。さらに、こうした企業の事業活動の停滞は、企業間取引を通じて、他の企業の生産活動をも停滞させるマクロ経済的な外部不経済効果をもたらす。こうして、過剰債務による不況が長引く。

モデルでは、事前の資産価格のブームが大きいほど、事後の生産性の低下や生産量の低下が大きくなることも示される。

また、政策的含意として、過剰債務はマクロ経済的な外部不経済効果を持つので、金融危機後の過剰債務の減免のための政策(銀行への債務処理に伴う補助金や資本注入)は、社会厚生を高める有意義な政策であることが示される。

さらに、事後の債務減免政策が予見されていても、事前の企業の行動を歪める効果(時間不整合性)は少ないと考えられる。資産ブームを引き起こすのは借り手企業の行動であるが、事後の補助金等は一義的に銀行への資源移転なので、企業の行動に与える影響は小さいからである。このように、このモデルは、金融危機の典型的パターンを再現し、政策の比較検討する上で有益なツールである。

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ワーキング・ペーパー(24-004E)Asset-Price Collapse and Macroeconomic Debt Overhang