メディア掲載  エネルギー・環境  2024.02.22

産業空洞化の結果にすぎない「順調なCO2削減」を誇る愚かさ

パリ協定の下、目指す「排出ゼロ」は〝破滅への道〟

夕刊フジZAKZAK2024216日)に掲載

エネルギー・環境

ドナルド・トランプ前米大統領が、大統領選の共和党指名争いで独走している。トランプ氏がホワイトハウスに凱旋(がいせん)した場合、ジョー・バイデン政権で復帰した温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再離脱する可能性が高い。昨年末のCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)では、世界の温室効果ガス排出量を2035年に60%削減(19年比)という数字が打ち出されたが、このままでは日本経済や国民生活に甚大な打撃を与えかねないという。一方、中国などのグローバルサウスはパリ協定を意に介さず、CO2を排出し続けている。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉山大志氏による最新リポート。

日本政府は、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の下、50CO2(二酸化炭素)排出ゼロを目標にしている。それを直線的に目指すとして、第6次エネルギー基本計画(6次エネ基)では30年に46%削減としている。そして、今年検討する第7次エネルギー基本計画(7次エネ基)では35年に60%削減とする考えのようだ。

だが、これは破滅への道だ。すでに再エネ大量導入などで、光熱費は高騰した。このままではますます悪化する。

日本でも欧州でも、CO2規制がむやみに強化されつつあり、産業、特に、エネルギー多消費産業が大脱出している。

ドイツ最大手の化学企業BASFは、国内生産を縮小し、中国に100億ユーロの投資をして工場を建設する。英国では国内で最後の高炉が閉鎖され、3000人の従業員が解雇されると報道されている。日本の大手鉄鋼会社は国内での工場を閉鎖する一方で、インドで高炉を建設し、米国の鉄鋼会社を2兆円かけて買収すると報じられている。

政府が水素技術開発の補助金などを出したところで、引き留めることはできない。これは企業判断としてはやむを得ず、ある意味合理的かもしれない。

だが、国家としては、存亡にかかわる致命的な失敗である。エネルギー多消費産業の多くは素材産業であり、製造業の基盤だ。それに補助金といっても原資は他の企業の負担になり、ますます産業空洞化に拍車を掛けることになる。

13年以降、日本のCO2排出は減少している。伊藤信太郎環境相は「日本は196カ国の中で、まれに見るオントラックな削減をしている」と述べた。このオントラックとは、50CO2ゼロに向かって直線的に排出量が減っている、という意味で使われている。

だが、排出量が減っている理由は何か。経団連はその要因分解を昨年11月に発表した。

産業部門の13年から22年でのCO2排出削減の内訳は、76%が「経済活動の低下」によるものと判明した。エネルギーの低炭素化と省エネは合計で24%しかない。つまり日本のCO2が「順調に」減っているのは、「産業空洞化の結果」にすぎない。

日本政府は、これまで「オントラック」でCO2が減ってきたことを誇っているようだ。これだけでも愚かしいことだが、さらに30年、50年、とこのまま直線的にCO2を減らし続けるべきだと思っているのだろうか。

そんなことをすれば、空洞化に歯止めはかからず、産業は本当に壊滅するだろう。失業者が蔓延(まんえん)し、政府の税収は無くなり、通貨は下落し、日本はいよいよ惨めな発展途上国に成り下がる。

諸悪の根源は、パリ協定であり、先進国だけが執着している「50CO2ゼロ」という実現不可能な目標である。これと決別するために、日本は来年復活する可能性が高い「トランプ米政権」とともにパリ協定を離脱すべきだ。