メディア掲載  エネルギー・環境  2024.01.09

温暖化対策の切り札は核融合発電、2050年実用化へ日本は世界をリードせよ

「あれもこれも」と手を出さずに、強みを持つ核融合に注力すべし

JBpress20231224日)に掲載

エネルギー・環境 科学技術・イノベーション

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太陽のように核融合でエネルギーを生み出せるようになれば、温暖化問題は解決する


アラブ首長国連邦(
UAE)で開かれていた気候変動対策の国連会議、COP281213日に閉幕した。焦点となっていた化石燃料について意見が対立するなど、例年通り、各国の食い違いがあらわになった。現実の世界ではCO2排出量が増え続けており、温暖化対策はなかなか進まない。その流れを変えられるのが核融合発電だ。2050年に実現すれば、地球温暖化のペースを緩やかにして、やがて止めることができる。核融合の技術力で先頭を走る日本がリードして開発を進めるべきだ。


事実上無尽蔵で安全かつ核拡散の心配がない

  核融合は順調に開発が進めば2050年には実用化される。その暁には、現在の原子力発電並みの手頃な価格で、事実上無尽蔵で、安全、かつ核拡散の心配もない、非の打ち所がない発電方式を、人類は手に入れることになる。

 他方でいま、先進諸国は2050年までに脱炭素、つまりCO2排出をゼロにすると言っている。ならばそのころにようやく実用化される見込みの核融合には、もはや温暖化対策としての価値は残されていないのだろうか?

 そうではない。なぜなら、現実には、先進国の2050年までの脱炭素はおぼつかないからだ。

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国際共同研究としてフランスに建設中のITER(国際熱核融合実験炉)には日本も参画

 原子力発電に一気に舵を切れば、発電部門からのCO2についてはほぼ脱炭素ができることになる。しかしこれには多くの国で政治的な反対が根強い。また核拡散の心配もある。

 大型の水力発電は安価だが、開発される地点に物理的な限界がある。日本では、経済的に開発できる地点は、ほぼ利用され尽くしてしまった。

 太陽・風力などの間欠性の再生可能エネルギーは、発電していない間は既存の発電設備に頼らざるを得ない。結局のところ二重投資になり、電気代はかさむことになる。ドイツやデンマークは、再エネは多いが、そのせいで電気代が高い。

 木材チップやソルガム(こうりゃん)などのバイオ燃料も現状では化石燃料よりはかなり高価である。技術開発次第で化石燃料に近いコストになるかもしれないが、世界中のエネルギーを供給するとなると、広大な面積が必要になるため、生態系保全などの観点から政治的な反対が強まるだろう。

 また、CO2の排出源としては、発電所以外の、工場やオフィスにおける化石燃料の直接燃焼の方がはるかに大きく、発電所の倍はある。鉄やセメントを生産するための石炭、プラスチックを生産するための石油やガス、工場におけるボイラーで使う石油やガスなどだ。この脱炭素には費用がかさむため、あまり進みそうにない。

 いまでも、世界における脱炭素がなかなか進まず、化石燃料消費量が増え続け(下図参照、配信先のサイトでお読みの場合、「JBpress」のサイトからご覧ください)、CO2排出量も増え続けている。この根本的な理由は、化石燃料に代わる、安価で、かつ世界諸国で広く使うことのできるエネルギーが存在しないからだ。

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世界のエネルギー消費量の推移。化石燃料が8割以上を占める(出所:資源エネルギー庁

 したがって、先進諸国の脱炭素宣言にもかかわらず、2050年に至っても、世界のCO2はそれほど劇的には減りそうにない。現在よりも増加しているか、せいぜい横ばい程度であろう。

 だがその時点から、核融合が利用できるようになれば、発電部門においては核融合が既存の発電を置き換えてゆくことになる。50年もたてばかなり置き換えが進み、2100年には発電部門からのCO2排出は劇的に減るだろう。

 安価な電気が大量に供給されることで、化石燃料の直接燃焼を電気利用に置き換えてゆく電化も進むだろう。ガソリン自動車に代わる電気自動車や、ガスストーブに代わるエアコンによる暖房などだ

また核融合は安価かつCO2を排出しない合成燃料の供給源にもなる。

 いま、水素を利用した合成燃料の技術開発が盛んに進められているが、一番のボトルネックは、そもそも水素を安価・安定に供給する技術が存在しないことである。原子力を使えばこれが可能だが、これも政治的なハードルが高い。だが核融合が実現すれば、水素の安価な供給源にもなる。

地球温暖化問題はほぼ解決へ

 核融合の普及によって、発電部門のCO2削減が進み、また化石燃料を直接燃焼してつくる電気の代替が進む。その結果、2100年には世界のCO2排出量が現在の半分近くになったとしよう。

 そうすると、大気中のCO2濃度はほぼ一定になり、地球温暖化のペースも遅くなる。このため、地球温暖化問題はほぼ解決する。

 この理由であるが、毎年世界で排出されているCO2の量の約半分(56%)は、森林などの陸上生態系と、海洋に吸収されているからである。このため、大気中のCO2濃度を安定化させるためには、CO2排出をゼロにする必要はない。半減させれば十分なのである。

 CO2濃度を安定化させても、ゆっくりとではあるが、地球温暖化はなおも進む。しかしながら、ひとたび核融合が実現していれば、その後もCO2排出量は減り続ける。化石燃料が核融合よりも高価になってしまえば、化石燃料を使い続ける動機がなくなるからだ。

 そうすると、大気中のCO2濃度は減少に向かう。こうなると地球温暖化も止まる。

「(産業革命前に比べた世界の平均気温上昇が)1.5度を超えると破局する」という極端な気候危機説と、これまた極端な「2050年脱炭素」目標が掲げられ、それがポリコレとなってしまったために、いま、世界は、温暖化対策の現実的な解決策を議論できなくなっている。

 気候変動枠組み条約締約国会議(いわゆるCOP)における毎年の国際交渉の構図はと言えば、先進国は途上国にも2050年脱炭素を宣言するように迫り、途上国は拒否している。途上国は先進国に年間1兆ドル(約150兆円)という途方もない額を拠出するよう迫り、先進国は拒否している。

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UAEのドバイで開かれた2023年のCOP28でも各国の意見が対立。会期を1日延長した。写真左は議長のジャーベルUAE産業・先端技術相、右は米国のケリー気候問題担当特使

世界は「脱炭素疲れ」の様相に

 2050年脱炭素という目標は極端すぎて実現不可能である。それを目指すだけでもコストがかさむ。2023年には、イギリス、アメリカ、台湾など、世界各地で洋上風力事業からの相次ぐ撤退が報じられ、米国では再エネなどのグリーン銘柄の株価が崩壊するなど、「脱炭素疲れ」の様相になっている。

 2050年に脱炭素が達成できなくても、地球の平均気温が現在より約0.5度上がって、産業革命前からの気温上昇が1.5度になったとしても、それで世界の終わりになるわけではない。行き過ぎた気候危機説は間違いであることは、新しくIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の議長に就任したジム・スキー氏までが戒めたほどだ。

 ただし、化石燃料については、それが枯渇する前に使用を止めたほうがよいのは確かだ。化石燃料、とくに石炭は豊富にある。現在の埋蔵量は、年間消費量の200年分を超える。この化石燃料が全て大気中に放出されるとなると、かなりの気温上昇が起きる可能性があるので、これは避けたほうが良さそうだ。

 その一方で、緩やかな地球温暖化であれば、それほど大きな問題は起きそうにない。過去150年に約1度の気温上昇が起きたが、統計データや観測データを見ると自然災害の激甚化も生態系の破壊も起きていない。むしろ化石燃料を活用したことで経済成長を謳歌することができて、人類は、かつてなく、健康で長生きできるようになった。

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 これからなすべきことは、気温上昇のペースを現在程度の緩やかなものに留めること、そして化石燃料を使い尽くす前に、それよりも安価な代替エネルギーを開発して、化石燃料が要らない世界にすることである。これは実現可能な目標である。そしてこのためには、核融合が切り札になる。

現実的なソリューションを提供するのが日本の役割

 日本は核融合に関しては世界の先端を走っている。日本単独で核融合発電を実現するだけの技術力も有している。いま2兆円投資して「原型炉」を建設すれば、2050年の実用化が視野に入る

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 日本政府のグリーントランスフォーメーション(GX)計画では今後10年間で150兆円もの脱炭素投資をするという。だが、あれもこれも、と手を出した挙句、高価なエネルギーしか供給できず、化石燃料に代わる安いエネルギーを供給できないことを危惧する。

 日本は、地球温暖化問題を最終的に解決するソリューションとしての核融合技術を開発し、世界に提供することにしてはどうか。