メディア掲載  外交・安全保障  2023.12.01

「西側の武器庫」韓国とロシアの意外なつながり

Wedge ONLINE20231124日)に掲載

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 米国・ホワイトハウスが1013日、北朝鮮によるコンテナ1000個分の対ロシア軍事物資が遠く離れたウクライナと目と鼻の先にあるロシア西部に到着したと発表した。エストニア軍情報機関のトップも北朝鮮がロシアに約30万発の弾薬を提供したと発言し、韓国国家情報院は「北朝鮮が8月からロシアの船舶などを利用して砲弾など各種武器を10回以上輸送した。北朝鮮からロシアに持ち出された砲弾は100万発以上」と具体的に明らかにした。今年913日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記がロシアを訪問し、プーチン大統領との会談を境に北朝鮮の対露軍事支援が具体化したことが明らかとなった。

 北朝鮮による対露支援が明るみに出たのとほぼ同時期に、韓国・ソウル近郊の城南(ソンナム)市にあるソウル空港(空軍基地)では、同国最大規模の防衛産業展示会(隔年開催)である「Seoul ADEX(ソウル航空宇宙および防衛産業展)2023」が開催された。6日間の期間中に約22万人の来場者が訪れ、35の国と地域の550社が参加し、12800万ドルの契約が結ばれたとされる(「「ソウルADEX」で294億ドルの受注商談 22万人来場」『聯合ニュース(日本語版)』20231023日)。

 ロシアによるウクライナ侵攻以後、西側自由主義諸国の中で韓国防衛産業の存在感は高まるばかりだ。もはや世界はロシアによるウクライナ侵攻後、朝鮮半島が東西陣営の武器庫としての存在感をいかんなく発揮している現実を受け入れざるを得ないだろう。

南北間での新しい軍事技術をめぐる競い

 過去10年間を振り返ると、われわれは北朝鮮による核実験(2013年・161月・9月、179月)とさまざまな種類の弾道ミサイル発射といった核とミサイルの技術的進展に目を奪われてきた。その一方で、韓国でどのような軍事的技術の進展があったかどうかについてはあまり注目されてこなかった。

 この間、韓国軍の能力増強策の中で注目すべきは、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)と潜水艦からSLBMを発射するための垂直発射装置(VLS)、そしてこれらを装備として兼ね備える新型潜水艦である。168月に北朝鮮がSLBM(北極星1号)の発射に成功すると、韓国国防部は水面下で韓国もSLBM開発を進めていたと明らかにした。

 VLSを搭載した潜水艦「島山安昌浩(トサンアンチャンホ)」は189月に就役。219月に同艦からのSLBM発射に成功したことで開発完了が宣言された。SLBM発射に必要なVLSのために必要なコールド・ローンチ技術はロシア由来であることが知られている。

 このほかにも18年以降、北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射を重ねると、ロシア由来とされる弾頭下降時に再度機動・上昇を可能にする「プルアップ機動」の技術を確立したことをアピールした。これに対して、当時の韓国国防部のチョン・ギョンドゥ長官が韓国もすでに国防部の付属組織である国防科学研究所で開発された技術を持っていることを明らかにしている。

 しかしながら、プルアップ機動は元々ロシアのイスカンデル型短距離弾道ミサイルが持つ独自技術であり、コールド・ローンチ技術と同様にロシア由来なのではと疑いたくなるが、実際のところ現時点で筆者はその根拠となる情報を持ち合わせていない。

知られざる韓国とロシアの軍事技術協力の歴史

 日本ではあまり知られていないが、冷戦後ソ連からロシアになって以後、韓国とロシアの間では防衛産業協力協定に基づく軍事技術協力が行われてきた。その起源は、冷戦末期に当時の盧泰愚大統領が推進した「北方外交」により、当時のソ連と国交締結し対ソ借款を提供したことである。ソ連崩壊後に借款を引き継いだロシアが経済状況の悪化により返済が困難になると、債務処理の手段として、ロシアからの防衛装備および技術の導入が実施されたのである。

 このロシアとの協力事業は「ヒグマ(韓国語で「プルゴム」)事業」と名付けられ、1995年以後、債務返還の代わりにロシアからT-80U戦車、BMP-3歩兵戦闘車、9K115 Metis-M対戦車ミサイルなどの装備品が韓国に渡った。今でも韓国軍はロシア製戦車を30台ほど保有しているとされる(「駐韓ウクライナ大使、韓国のミサイル生産企業訪問中止」『ハンギョレ』2023415日)。

 このロシアとの防衛産業協力は韓国の研究者レベルではロシアとの防衛産業協力があった事実は知られているものの、その協力レベルがどの程度のものだったのか人によって認識はさまざまだ。「大した兵器や技術を輸入していない」、「砲撃訓練の的になる戦車を輸入しただけだ」といったさまざまな答えが返ってくるがどれも信憑性が怪しい。

 韓国とロシアの間では9611月に「国防協力協定」が結ばれると、9711月に「軍事技術分野・防衛産業・軍需協力に関する協定」、2001年2月に「軍事秘密情報の相互保護に関する協定」、0510月には「地対空誘導武器体系協力事業の相互協力に関する協定」がそれぞれ締結された。

 ウクライナ侵攻の約1年前の21年3月には「国防協力に関する協定」が条約として再び締結されてもいる。90年代後半から脈々と続いてきた協力関係が存在するのだ。

ロシアとウクライナの狭間で

 22年3月7日にロシア政府は日本などと同じく韓国を非友好国と指定した。対ロシア制裁を巡って他の西側諸国と足並みが揃わず、若干トーンダウンした対応を見せた韓国が抱える事情には、ロシアに進出している自動車産業などへの影響だけでなく、宇宙開発も含む、ロシアとのさまざまな分野での協力関係を今後どうマネージしていけばよいのか、すぐに判断ができなかったからではないだろうか。

 韓国メディアの報道によれば、ウクライナがロシアによる侵攻以後、韓国からの武器援助リストを示したとされる。今年4月に駐韓ウクライナ大使が防衛産業大手のLIGネクスワンを訪問することが報じられている 。

 ウクライナは防空能力向上を進めており、同社製の中距離地対空ミサイル「天弓」が候補に挙がっていたことは容易に想像できる。「天弓」はまさにロシアから技術供与を受けたコールド・ローンチ技術が活用されている。

 今年1月にアラブ首長国連邦(UAE)との間で最新の「天弓2」の契約が結ばれ、輸出装備品としての存在感を高めている。韓国は自国製であることを強調しているが、ここまで紹介してきた通り、ロシアによる技術提供が大きな役割を果たしていることは確実だ。

 ウクライナとロシアの戦争が長引く中で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は自由・民主主義国との連帯へと舵を切った。同時に、軍事技術の面では、自国の技術革新に注力して「科学技術強軍」を目指している。

 今でこそ世界でも名だたる防衛産業輸出国となった韓国の技術革新に寄与してきたのは、意外にも米国だけでなくロシアの力も大きかったのである。