メディア掲載  エネルギー・環境  2023.11.17

エアコンは立派な再エネ技術、日本の国益に適う再エネ推進戦略を考える

ドイツのようにヒートポンプによる熱供給を含めれば、日本はすでに再エネ先進国

JBpress(2023.11.12)に掲載

エネルギー・環境

これまで日本では再生可能エネルギーといえば太陽光や風力発電のことだとされ、政策によって大量に導入されてきたが、電気料金高騰などの弊害も目立ってきた。だが考え方を変えて、ドイツのように、エアコンなどのヒートポンプを主要な再エネ技術と位置付け推進すべきだ。ヒートポンプを含めると、実は日本は世界をリードする再エネ先進国である。

■ドイツ暖房法「再エネ65%」はエアコン暖房でOK

 ドイツで「暖房法」が(川口マーン惠美氏が書いているようにすったもんだの末)成立した。家庭の暖房については「再エネの割合を65%以上にすることを義務付ける」となっている。

 65%という数字はいくら何でも無理だろう、バイオ燃料や再生可能エネルギー(再エネ)由来の電気を使うといっても限度がある、と思っていたら、カラクリがあった。エアコンで暖房すればそれでOKなのだ。ドイツ政府の説明を見ても、ヒートポンプ(エアコンのこと)を使って暖房をすれば、暖房法(GEG)の要件を満たす、と説明してある(図1)。

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【図1ドイツ政府資料より。説明は機械翻訳したもの。

■エアコンもエコキュートも再エネ技術

 さて図1では「ヒートポンプ」と書いてあるが、ヒートポンプとは何か。

 ヒートポンプとは、室外機から熱(ヒート)を室内に汲み上げる(ポンプ)ものだ。外気の熱を室内に汲み上げればエアコン暖房になり、外気の熱でお湯を沸かせば「エコキュート」などの商品名で知られる給湯機になる。

給湯器であれば、電気1キロワットアワーを使って、2キロワットアワー以上の熱を室外から汲み上げることができる(図2)。この室外から汲み上げた2キロワットアワーの熱の量だけ、外気は冷えて気温は下がることになるが、これは太陽がまた温めてくれるから、再エネといってよい。

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【図2】「エネルギー白書2023」(資源エネルギー庁)より

エアコン暖房であれば、電気1キロワットアワーを使って、6キロワットアワー以上の熱を室外から汲み上げることができる。この室外から汲み上げた6キロワットアワーの熱の量だけ、外気は冷えて気温は下がることになるが、これも太陽がまた温めてくれるから、再エネといってよい。

■ヒートポンプは再エネの主力である

 つまりヒートポンプが供給する熱は立派な再エネなのだが、これまでの(語るととても長い)経緯で、日本では「エネルギー供給構造高度化法」においてこそ再エネに分類はしているものの、再エネ推進の施策からは完全に蚊帳の外に置かれていた*。

*:経済産業省(資源エネルギー庁)のホームページでは、ヒートポンプが供給する空気熱を「その他の再生可能エネルギー」として説明しているが、日本の統計上の分類では明確化されておらず再エネとして推進されてもいない。

 だが、ドイツ暖房法においても、欧州の統計においても、もうこれを再エネに計上し推進するようになっている。

さてそれでは、日本全体では、ヒートポンプによる再エネ利用量はどのぐらいあるのだろうか。これについては、ヒートポンプ・蓄熱センターが詳細に推計している(次ページの表1および表2)。

表1 表2.jpg

ヒートポンプ・蓄熱センターのホームページより

これによると、2020年度の実績で1460ペタジュール(ジュールの1000兆倍、PJ)となっている。この量は莫大だ。日本のエネルギー需給の概要は図3に美しくまとめてあるので、数字を拾ってみよう。

図3.jpg

【図3】「エネルギー白書2023」(資源エネルギー庁)より

*ヒートポンプによる再エネ熱利用量(1460

に対して、

*再エネによる一次エネルギー供給(1325

*家庭のエネルギー消費量(1788

*最終エネルギー消費(12276

となっている。

■熱利用量は家庭エネルギー消費量に迫る

 すなわち、ヒートポンプによる再エネ熱供給量は、

  • すでに、太陽光・風力・バイオなどによる再エネの供給量を上回っており、
  • 家庭部門の全エネルギー消費量に匹敵する量になっている! 
  • そして、最終エネルギー消費に占める「ヒートポンプによる再エネ熱利用量」の割合も、12%(1460÷12276)にも上っている。つまりヒートポンプによる再エネ熱は日本全体のエネルギー消費の12%にも匹敵する!

 今後も、表1の「高位シナリオ」にあるように、技術開発や普及促進によって、この量はさらに増やすことができるだろう。

■ヒートポンプの再エネ計上にはたくさんのメリット

 日本も欧州のようにヒートポンプによる再エネ熱利用量を「再エネ」として統計に計上すべきであるし、政策においても「再エネ」として評価すべきである。

 そうすることのメリットは、少なくとも以下が考えられる。

熱利用の物理的な実態を正確に把握し、再エネ利用と省エネ対策を正確に評価できる
室内に供給される熱は、電熱器であろうと、ガス暖房であろうと、ヒートポンプでくみ上げた熱であろうと、すべて物理的には同じ熱である。だからどれも熱供給として同列に扱うべきである。また建築物の壁や窓などの断熱をする際にも、当然、どの熱であれ断熱の対象として物理的に同じなので、同列に扱うべきである。ヒートポンプで汲み上げた熱は、きちんと熱として計上し、さらにそれを再生可能エネルギー由来とする必要がある。また、壁や窓などから漏れる熱やヒートポンプを駆動するためのエネルギーは少ない方が良いので省エネ対策の対象にすべきである。

ヒートポンプ利用の促進になる
CO2の削減を進めるためには、化石燃料の直接燃焼を、電気で置き換えてゆく「電化」と、電気の低炭素化を両輪として進めてゆくことが、有力な選択肢である。ヒートポンプを再エネとして正しく位置付けることで、他の再エネと類似の政策的支援が行われ、普及が進むことが期待される。

エアコン暖房の促進になる
直接燃焼に比べて、エアコンで暖房することでCO2の削減になり、また多くの場合、光熱費も節約できることは、あまり知られていない。このため、多くの家庭において、エアコンが設置されているにもかかわらず、石油やガスのストーブないしは電熱器などで暖房していることがままある。エアコンを再エネ技術として位置付けることで、CO2と光熱費についてのメリットの啓発が進み、エアコン暖房の促進になることが期待される。

技術開発の促進になる
ヒートポンプは、技術開発による性能向上によって、電力消費量に対しての再エネ熱利用量をいっそう増加することができる。ヒートポンプを再エネ技術と位置付けることで、かかる技術開発への動機が増す。

日本の海外事業の発展が見込める
日本はヒートポンプの技術を有し、海外においても事業展開をしている。ヒートポンプを再エネ技術と位置付けることで、これを政策的に促進できる。

日本が再エネ先進国として位置付けられる
日本ではエアコン暖房および給湯ヒートポンプがよく普及している。そこでヒートポンプによる再エネ供給を計上することで、日本は再エネ先進国として位置付けられることになる。これを積極的に説明することにより、海外でも日本にならいヒートポンプ普及を促進しCO2削減につながる効果が期待できる。再エネについては、それぞれの国の状況に合わせて適切な技術が異なるのが常である中で、日本においてはヒートポンプが適した技術であり、それにより再エネ利用を進めていることについての国際的理解を得ることができる。

■ただし規制による押しつけは逆効果に

 なお最後に、ドイツ暖房法のように、強制的に再エネ機器(ヒートポンプを含む)の利用を義務付けることについては、筆者は反対である。

 ドイツだけではなく、英国、および米国の一部の自治体でも、石油・ガスボイラーの使用禁止が検討ないし導入されているが、これはかえってヒートポンプに対する敵意を高めているように見受けられる。

 規制によって強引に押し付けると、いずれ自立的な普及が見込まれる技術であっても、短期的なコスト負担などに伴う社会の混乱を招きかねない。実力で普及できるものが普及しなくなるのであれば本末転倒である。

 エアコン暖房やヒートポンプ給湯器は、その光熱費や性能などのメリットがよく理解され、納得のゆく形で国民に採用されてゆくことが望ましい。