メディア掲載  エネルギー・環境  2023.10.26

期待集まる「ソルガム発電」とは? 電気料金は上げずに火力発電を脱炭素へ

バイオマス発電の弱点をカバーする注目技術は石炭を代替できる可能性

JBpress2023925日)に掲載

エネルギー・環境

バイオマス発電といえば、コストが高いので、これまでは政府の定めた再生可能エネルギー全量買い取り制度によって推進されてきた。だがここにきて、コストが低く、政府による支援がなくても発電事業ができるのではないか、という技術が登場しつつある。

ソルガムを用いた発電だ。ソルガムは日本名では「高粱」と書いて「たかきび」ないし「こうりゃん」と呼ぶ。サトウキビに似た丈の高い草で、茎は甘く、イネのような穂をつけ、その実は食用になる。穀物として世界中で栽培されており、中国の蒸留酒白酒(バイチュウ)の原料にもなっている。そのソルガムを用いて発電するのだが、ここ数年で重要な技術進歩があった。


日本には膨大な品種改良技術の蓄積がある

これまでのバイオマス発電は、木材のチップや農業廃棄物などを燃料にしていた。だが、石炭などの化石燃料に比べて、いくつか問題があった。大量の原料を安定した価格で継続的に調達することが難しいこと、発熱量が少ないこと、うまく粉砕できないこと、などだった。

これらの問題を解決する技術が次々に開発されている。

まずは生命科学の知見を駆使して品種改良がおこなわれた。

日本では、イネについては品種改良技術の蓄積が膨大にある。ソルガムはイネ科なので、その人材や知見が大いに活用されることになった。東京大学の堤伸浩教授(植物分子遺伝学研究室)、藤原徹教授(植物栄養・肥料学研究室)らのグループが農業試験をしているいわき市(福島県)の農場を訪問し、現物を見ながら研究者の説明を受けた。

品種改良によって、成長は速くなり、収量が増えた。3カ月で6メートルの高さまで成長し、年に複数回作付けできる。栽培場所に適合した品種であれば最大で1ヘクタールあたりで年間200トン以上も収獲できた。木材ならばこれより1桁少なくなるから、驚異的だ。

燃料としての発熱量も増えた。ソルガムはリグニン、セルロース、ヘミセルロース、シリカなどで構成される。このうちリグニンの量を増やすこと(および後述の燃料成型技術)によって、キログラムあたりの発熱量が5200キロカロリーを超えるようになった。火力発電用の石炭の平均値にこそ及ばないものの、それに迫るものだ1

1:このソルガムの発熱量は低位発熱量。日本で発電に用いる輸入一般炭の発熱量は平均で6200キロカロリーである。ただしこれは高位発熱量であり、低位発熱量はこれより5%下がる。

リグニンは木の硬さをもたらす分子なので、それが増えることで、やはり植物の硬さをもたらす成分であるシリカを減らすことができる。これで灰の発生が少なくなることも、発電には都合がよい。

地域の気象条件に合わせて品種改良を行う体制もできている。イネは、北海道でゆめぴりか、東北でコシヒカリ、九州でヒノヒカリなど、それぞれの品種を開発して作付けている。同様に、ソルガムも、気温、雨量、土壌など、さまざまな地域条件に合わせて品種改良できる。

高温で雨がよく降る方がもちろん収穫量は多くなるが、食料があまり採れないような場所でよく生育する品種も生まれているという。

発電用燃料に成型する技術も進歩

燃料の発熱量を高めたもう1つの重要な要素が、ソルガムを発電用燃料に成型する技術だ。これもここ数年で進歩した。

鍵になるのは蒸気爆砕(ばくさい)という工程だ。

これはポップコーンや米のポン菓子の製造と原理は同じだ。すなわち、高圧容器の中に水蒸気を満たしてソルガムに浸透させた後、高圧容器からソルガムを素早く放出すると、内部に溜まっていた水蒸気が爆発して、ソルガムの植物組織を破壊してフワフワになる。これによって、内部の水が抜けやすくなるほか、丸いペレット状に容易に成型することができる。

余談ながらペレットは何に似ているかといえば、シカのフンに色も形も大きさもそっくりであった。もう1つ余談ながらポップコーンの場合は固い皮が圧力容器になっているので温めるだけで爆発する。

このペレットのありがたいところは、既存の石炭火力発電所と相性が良いことである。

いま日本で主力の石炭火力発電所は、微粉炭という方式をとっている。まず石炭をミル(直径数メートルの巨大なすり鉢)で粉砕し磨り潰してパウダー状にする。それをノズルから噴射して燃焼し、ボイラーでお湯を沸かして発生した蒸気で発電する。

これまでの木材燃料などでは、石炭用のミルではうまくパウダー状に出来ないという問題点があった。このため、既存の石炭火力発電所に木材を混ぜて燃やす「混焼」をする際に、木材の量は石炭に対して数パーセントに抑える必要があった。

これに対して、ソルガムを蒸気爆砕したのちに成型した丸いペレットは、既存のミルとの相性がよく、石炭並みに容易にパウダー状になるとのことだ。

価格はどれくらいか?

発熱量が高く、微粉炭火力技術が使えるとなると、発電効率も既存の石炭火力発電所にあまり引けをとらないようにできるだろう。

ではその燃料は、いったいいくらで手に入るのか?

筆者のヒヤリングによれば、オーストラリアから輸入する場合、成型されたペレットは1トンあたり150ドル程度になるという2。ペレットは現状では石炭よりもやや発熱量が低いが、今後の技術進歩を加味して、石炭が1トンあたり150ドル程度になればほぼ互角の価格になる、と想定しよう。

2:このペレットの150ドルというのは、船積みまでのFOB価格なので、それに運賃と保険料を足したCIF価格だとこれよりも12割程度高くなると思われる。

 石炭の価格は、昔はトンあたり50ドル程度だったが、ここ10年ぐらいは100ドル程度で推移してきた。ウクライナでの戦争が始まってからは、200ドルを超えるような価格になっている。

石炭火力発電所の燃料費は、石炭価格が100ドルならば1キロワットアワーあたり5円、200ドルならば10円程度と試算されている3

3:経済産業省の「基本政策分科会に対する 発電コスト検証に関する報告」によると石炭価格が80ドル程度という想定のもとで、石炭火力発電所の燃料費は1キロワット・アワーあたりで4円程度と試算されている。

今後も品種改良の余地

ソルガムペレット燃料の燃料費は、やがて1トンあたり150ドルの石炭と同じになると考えるならば、1キロワットアワーあたりで7.5円程度となる。

ただし、いまのような石炭価格が長期にわたって持続するとは考えにくい。今後、石炭価格が100ドル程度に落ち着くとすると、ソルガムペレットの燃料費は石炭よりも2.5円程度高いことになる。

やはり価格差はあるけれども、ほかの温暖化対策手段に比べてみると、それほど高くなさそうである。それに、ほかにも魅力がある。

一つは、安定した出力が得られることだ。太陽光発電や風力発電は出力が安定しないという重大な欠点があるが、ソルガムを使った発電にはそのような問題がない。

それから、今後も品種改良などで技術開発の余地があることだ。

前述の150ドルという価格にしても、そのようなヒヤリング情報があるというだけで、石炭価格のように公開の市場価格があるわけではない。全量買い取り制度による支援なしでも発電事業を始めようという事業者があるくらいなので 、すでにかなり安価に燃料が買える可能性がある。

200万ヘクタールの栽培で石炭火力を代替

太陽光発電も風力発電もそうだが、バイオマス発電もやはり広大な土地が必要となる。だが品種改良によって収量が増えると、必要な土地も大幅に節約できる。

日本の石炭火力発電所は合計で年間1億トンの石炭を消費している。これをすべてソルガムペレットで賄うとすると、どれだけの土地が必要だろうか。

ソルガムの収量を1ヘクタールあたり年間で200トンとしよう。これは水分を75%含んでいるので、水分を除いたペレットにすると50トンとなる。単純に1億トンを50トンで割り算すると、200万ヘクタールとなる。

日本の面積は3700万ヘクタールだから、200万ヘクタールというと日本の面積の5.4%に当たる。これだけの土地を、世界のどこかに確保すれば、日本の火力発電所の石炭を全てソルガムで代替できる計算になる。

ちなみに世界の農地面積は15億ヘクタールなので、200万ヘクタールは世界の農地の0.13%程度である。

いま日本政府は「脱炭素」を掲げ、火力発電所からのCO2削減手段として、太陽・風力で発電してアンモニアを合成し、それで発電するという「アンモニア発電」や、火力発電所から発生したCO2を回収して地中に埋めるCO2回収貯留(CCS)などの技術開発を進めている。

だがこれらは、技術開発が順調に進んだとしても、かなりの高コストになることは避けられないように見える。ソルガムペレットを用いた発電であれば、それよりもだいぶ安く上げることができるかもしれない。

加えて、既存の石炭火力発電所への混焼からはじめ、様子をみながらソルガムの投入量を増やしてゆける、という「柔軟性」がある点も大事である。

まずは数%の混焼から始めることで、民間企業による技術開発も一層進むだろう。何年、何十年と経って、CO2削減の要請が高まれば、混焼比率を高め、最後は100%にする。

政府支援による技術実証を

いま日本はCO2削減に熱心だが、そのうち状況が変わり、石炭火力による安価な電気が望まれるようになるかもしれない。そのときにはソルガム混焼の比率は下げればいい。

あるいは、技術開発が奏功してソルガム発電がとても安価になり、その一方で化石燃料が高値で推移すれば、CO2とは関係なく、ソルガム発電が日本の発電の主力になるシナリオも考えられる。

筆者が見分した範囲では、ソルガム発電の要素技術はかなり出揃っており、一定規模での事業によって一連の技術全体を実証し、それを通じて技術開発を促進する段階に来ているように見受けられる。

政府支援がなくても事業を立ち上げる企業もあるかもしれないが、民間企業だけで取り組むのはハードルが高そうである。このような、技術の黎明期には、政府が補助金などの形で支援して研究開発と実証事業を進めることが望ましい。

政府による支援としては、もちろん、再エネ全量買い取り制度の対象にする方法もある。これまでのところ、ソルガムは再エネ全量買い取り制度の対象となっていない。食料生産と競合するという理由で除かれているようだが、これはずいぶんと青臭い、書生的な話である。

食料生産との競合を意識しすぎてはいけない

おおよそ、エネルギーを生産するときに、何もマイナスがない技術など存在しない。太陽光も風力発電もマイナスがないわけではない。あらゆる発電技術を横並びに見て、「食料生産と競合する」という抽象的な理由でソルガムを支援対象から外すというのは適切に思えない。

もちろん、食料生産と競合しない場所に限ってソルガムを生産するという選択肢もある。

だが、食料生産ができるような生産性の高い土地で集中的にソルガムを生産することによってこそ、経済性は高くなるし、必要な土地面積は極小にできるのではないか。食料生産との競合を意識しすぎれば、経済にとっても環境にとっても重要な機会を逃すことになりはしないか。

もしCO2が気にならないなら、石炭火力をそのまま使えばよい。だがもしもCO2を問題視するなら、必然的に、石炭火力に代えてなんらかの技術を導入することになる。世界の農地面積の0.13%を使ってソルガムを生産し、それほどコストをかけずに、日本の石炭火力を全て代替できるならば、これはとても魅力的な方法だ。