メディア掲載  財政・社会保障制度  2023.08.04

「第3子以降1000万円」の検討を

異次元の少子化対策とフォローアップの重要性

月刊 Voice 8月号(2023年7月6日)に掲載

経済政策

岸田政権がかねてより訴えてきた「異次元の少子化対策」の概要が明らかになった。わが国で加速度的に少子化が進むなかで、本当に有効な対策が何かを検討する。


「もはや時遅し」で諦めていいのか

先般(20236月)、岸田政権の目玉の一つである「異次元の少子化対策」の施策の概要(こども未来戦略方針)が判明した。

施策は、政府が20233月下旬に示した「たたき台」に沿ったもので、(1)経済的支援の強化や若い世代の所得向上、(2)すべてのこども・子育て世帯に対する支援の強化、(3)働き方改革(共働き・共育て)の推進を三本柱とし、児童手当の拡充(例:1.2兆円)や保育サービスの充実(例:0.8兆円~0.9兆円)、奨学金の拡充など、全体で約3兆円~3兆円半ばの対策となる見通しだ。

とくに問題となったのは財源だ。政府は当初、6月の「骨太の方針」までに検討を深めるとしていたが、年末までに結論を出す方針に転換した。今後の選挙戦略が関係している可能性もあるが、方向性がないわけでなく、政府は主に次の3つの措置で財源を賄う方針だ。

1の財源は、徹底した「歳出改革」(例:年1800億円程度)を段階的に56年間で行ない、一定の財源(例:最終的に0.9兆円~1.1兆円)を確保するというものだ。また、第2の財源は、すでに確保が決定している財源(例:消費税収の一部0.2兆円、子ども・子育て拠出金〈企業負担分〉0.2兆円)を活用するもので、これで一定財源(例:0.9兆円)を賄う。最後の第3の財源は、政府が「支援金」制度と呼ぶものだが、医療保険料などの上乗せで一定の財源(例:0.9兆円~1兆円)を捻出するというものだ。

以上のとおり、「異次元の少子化対策」の概要が判明したわけだが、本当に重要なのはこれからだろう。そもそも、岸田政権が対策を急いだ理由は何か。それは、少子化が急速に進んでいるためだ。

2022年の合計特殊出生率(以下「出生率」)は1.2565になり、過去最低を更新した(注:これまでの過去最低値は2005年の出生率〈1.2601〉だったが、小数点以下でわずかに下回った)。1970年代前半に200万人程度であった出生数が、2022年には80万人を割り、77万人にまで減少した。2000年から現在までの減少率は年平均1.81%だ。政府の予測(国立社会保障・人口問題研究所の中位推計)では、2071年に出生数が50万人を割るとしているが、現在のトレンドが継続すると、2028年には出生数が70万人を割り込む可能性もある。その場合、60万人割れは2036年、50万人割れは2046年となる。

このような状況のなかで策定したのが、今回の対策だ。有識者のなかには、「対策の必要性は理解できるが、少子化の問題は10年・20年以上も前から深刻化しており、出産可能な女性の数がここまで減少してしまっては、もはや時遅しではないか」という意見もあるが、筆者はそうは思わない。人口減少を直ちに反転することはもちろんできないが、できるかぎり早く少子化のトレンドを転換したほうが、将来の人口に寄与する効果が高い。転換が遅れれば遅れるほど、人口減少は加速する。

このため、岸田首相が強いリーダーシップのもと、「異次元の少子化対策」を打ち出した意味があったことは間違いない。だが、課題も多い。

財源問題もあるが、今後の課題の一つは、「子育て支援を充実したとしても、出生率が上昇するとはかぎらない」という厳しい現実を前提に、各施策の効果検証を行ない、今後の施策の序列や優劣を変更していくことだ。効果検証は「こども未来戦略方針」でも強調しており、フォローアップを行ないながら、既存施策の延長線にとらわれず、柔軟な発想で制度設計や施策の改廃を行なっていくことも重要だ。この点で、本当に重要なのは「異次元の少子化対策」の財源確保(約3兆円~3兆円半ばの帳尻合わせ)ではなく対策の中身で、「出生数の減少に歯止めがかかり、反転上昇を促すことができるか」という対策の効果検証や改廃の体制整備が問われる。以下、順番に説明しよう。

フィンランドの出生率低下が示唆するもの

まず、「子育て支援を充実したとしても出生率が上昇するとはかぎらない」とはどういう意味か。既述のとおり、筆者も少子化対策の拡充は必要だと思っており、対策の必要性は否定しないが、この意味はフィンランドの現状を調べてみると分かる。

フィンランドは北欧諸国の一部で、日本では、子育て支援が充実したモデル国として取り上げることが多いが、現在のフィンランドの出生率は高くない。2019年は1.352020年は1.37しかない。たしかに1989年から2014年までは1.7を超える出生率で、2010年には1.87という高い値であったが、2010年以降は急低下して現在の出生率は1.4を下回っている。

一方、日本の2020年の出生率は1.342018年は1.42)であり、このことから、フィンランドの出生率は日本と概ね似た状況に陥っていることが分かる。雇用不安が原因の一つではないかともいわれているが、出生率が急低下した本当の原因は、現在のところ分かっていない。仮に雇用不安が主因ならば労働市場の安定化が必要だが、2022年におけるフィンランドの失業率は6.8%に低下しており、少々疑問が残る。むしろ、出生率が高かった1992年から2003年までの失業率は9%を超えていた。

では、フィンランドの子育て支援策が日本と同様に貧弱かというと、そうではない。フィンランドの2020年における社会保障費(対GDP)は42.1%もある。このうち、家族及び子育て支援が9.6%も占めており、フィンランドの2020年における家族関係社会支出(家族及び子育て支援)は対GDP比で約4%(=42.1×9.6100)にも達する。他方、同年における日本の家族関係社会支出(対GDP)は約2%なので、フィンランドは日本の2倍もある。にもかかわらず、フィンランドの出生率は日本と同程度に低下しているのだ。

「子育て支援」と「少子化対策」の違い

では、何が問題なのか。一つの問題は、出産・育児の機会費用の上昇というのが経済学の標準的な見解だ。すなわち、日本では大卒の女性が出産・育児による中断で逸失する生涯所得は1億円超に及ぶケースも多いが、似た問題は、フィンランドや他の先進国でも出生率低下の要因として議論されている。

また、別の問題としては、「子育て支援策」と「少子化対策」の区別が十分にされずに、出生率の引き上げに関する議論が展開されていることもある。フィンランドの事例でいうならば、家族関係社会支出が対GDP比で約4%もあるからといって、少子化対策の支出がそのすべてを占めているわけではない。

そもそも、一般的に少子化対策といっても、さまざまな政策手段があり、出生数の増加そのものに直接働きかける出産育児一時金のような施策(a)と、出産後の子育て支援を行なう児童手当や学童保育支援のような施策(b)の2グループがある。教育や子ども医療費の支援も(b)のグループに属す。少し前に話題となった税制措置の「NN乗」方式も、グループ(b)に近い。

では、「子育て支援」と「少子化対策」の違いは何か。その違いは「時間軸」で考えると分かりやすい。たとえば、ある夫婦やカップルが子どもをもちたいと考えてから出産するまでという「時間軸(a)」と、出産後からその子どもが成人するまでの「時間軸(b)」で考えてみよう。この場合、前者の「時間軸(a)」のなかで、出生数を増やすことを主な目的としたものが「少子化対策」であり、後者の「時間軸(b)」のなかで、生まれた子どもをもつ家庭に対し、その育児や教育などを支援することを主な目的としたものが「子育て支援」と区分する方法がある。この意味では、不妊治療の支援の時間軸は(a)で、出生数の増加そのものに直接働きかけるものであることから「少子化対策」に属すが、児童手当の拡充の時間軸は(b)で出産後の育児などを支援するものであるから「子育て支援」に属す。

もっとも、厳密な意味では、「少子化対策」と「子育て支援」は区別できないケースもある。既述の区分方法では、出産育児一時金のようなグループ(a)に属す施策が「少子化対策」で、児童手当のようなグループ(b)に属す施策が「子育て支援」と区分できる。だが、たとえば、子ども1人当たり毎年24万円ずつ10年間給付する「児童手当」を、出産直後に一括で240万円給付する施策に改める場合、それは「出産育児一時金」と実質的に同等になり、グループ(a)とグループ(b)の厳密な区分が難しいケースもあるのは事実だ。

だが、この事実を前提にしても、少子化対策と子育て支援の違いを意識して、出生数の増加に及ぼす効果の序列や優劣を議論することが重要だ。この違いを意識せず、グループ(a)とグループ(b)のすべてに対し、総花的な対策で、資源の逐次投入を行なっているだけでは、財源的な制約もあるなか、少子化のトレンド転換を果たすことは難しい。人間は必ずしも合理的ではなく、行動経済学的な知見を考慮すると、グループ(b)よりもグループ(a)のほうが出生数の増加に寄与する可能性が高いという視点も重要だ。

ターゲットは「有配偶出生数」

以上の区別のほか、出生数を引き上げるコアが何か、しっかり見定めてから、対策を打つことも重要だ。筆者は、このヒントになるのが、「出生率の基本方程式」だと考えている。

この方程式は筆者が時々利用しているもので、「合計特殊出生率=(1-生涯未婚率)×有配偶出生数」という関係式をいう。日本では婚外子は約2%しかおらず、子どもを産む女性は結婚している女性が多いため、合計特殊出生率は平均的に見て、夫婦の完結出生児数(夫婦の最終的な平均出生子ども数)に「有配偶率」(=1-生涯未婚率)を掛けたものに概ね一致する。

このため、夫婦の完結出生児数を「有配偶出生数」と記載するなら、「合計特殊出生率=(1-生涯未婚率)×有配偶出生数」という関係式が成立し、たとえば、生涯未婚率が35%、夫婦の完結出生児数が2であるならば、出生率の基本方程式から、合計特殊出生率は1.3になる。

また、厚生労働省「出生動向基本調査」によると、夫婦の完結出生児数は1972年の2.2から2010年の1.962015年の1.94まで、概ね2で推移してきたことが読み取れる。それにもかかわらず、合計特殊出生率が低下してきている主な理由は、生涯未婚率が上昇してきたためである。

出生率の基本方程式から、合計特殊出生率を引き上げるためには、二つの施策が考えられる。まず、一つは「生涯未婚率を引き下げる施策」(①)であり、もう一つは「有配偶出生数を引き上げる施策」(②)だ。ここでは、後者の施策(②)を考えてみよう。

既述のとおり、有配偶出生数は1970年ごろから概ね2であるが、生涯未婚率(0.35)が変わらない前提のもと、有配偶出生数が3に上昇したら、どうなるか。出生数の基本方程式から、合計特殊出生率は1.95となる。この値は、現在の合計特殊出生率(1.3)の概ね1.5倍で、現在の出生数が約80万人であるため、出生数は120万人程度に跳ね上がる可能性があることを意味する。

では、「出生率の基本方程式」で、有配偶出生数を引き上げる施策に注目する理由は何か。一つの理由は、①の施策により、生涯未婚率が35%から20%に引き下がっても、有配偶出生数が2のままでは、出生率は1.6(=0.8×2)までしか改善しない。より極端な議論では、生涯未婚率がゼロに近づいても、有配偶出生数が2のままでは、出生数の上限は2で、人口置換水準の2を超えることはできない。しかしながら、生涯未婚率が35%のままでも、有配偶出生数が3になれば、出生率は1.95になる。さらに、有配偶出生数が4になれば、出生率は2.6になり、人口置換水準の2を超えることができる。

もう一つの理由は、1940年との比較では、生涯未婚率の上昇要因よりも、有配偶出生数の低下要因のほうが大きいためだ。既述のとおり、現在の婚外子割合は2%だが、1940年も約4%しかない。このため、出生率の基本方程式の議論が1940年でも適用できる。出生動向基本調査のデータによると、1940年の出生率は4であり、有配偶出生数は4.27もあった。出生率の基本方程式から逆算すると、1940年の生涯未婚率は約6%となる。

このことから、出生率の基本方程式を用いて、1940年から2020年までの出生率低下の要因分解を行なうと、生涯未婚率の上昇要因(婚姻率の低下要因)は約33%、夫婦の完結出生児数の減少要因は約67%となり、後者の要因のほうが圧倒的に大きい。

出生率の低下の主な原因は生涯未婚率という意見が時々見られるが、それは違う。最終的には政治判断だが、「生涯未婚率を引き下げる施策」と「有配偶出生数を引き上げる施策」のうち、どちらをまず重点的なターゲットにするべきかは、基本方程式から明らかではないか。なお、生涯未婚率が上昇してきた背景には、若い世代の賃金が伸び悩み、その労働環境が厳しさを増していることが関係している可能性が高く、この改善も重要であることは明らかである。

本気で少子化のトレンドを逆転させるならば

もっとも、ターゲットが分かったとしても、どうやって有配偶出生数を2から3に引き上げるのか。これは容易ではないが、これこそ、異次元の対策として、第3子以降の出産につき、出産育児一時金を子ども1人当たり1000万円に引き上げてみてはどうか。既述のとおり、夫婦の完結出生児数は1970年代から現在まで概ね2で推移してきたが、1940年代の完結出生児数は概ね41950年代は概ね3.51960年代は3弱もあった。

まずは、有配偶出生数の2から3への引き上げを政策ターゲットに位置付け、第3子以降の出産を強力に支援するため、第3子以降の出産育児一時金を子ども1人当たり1000万円に引き上げるという施策である。

昨年、岸田首相のリーダーシップで、出産時に子ども1人当たり42万円が支払われる「出産育児一時金」を、2023年度から50万円に引き上げることを決めたが、これまでの出生数の減少トレンドを見ても、8万円程度の増額で合計特殊出生率が上昇に転じるとは信じがたい。岸田首相や政府が本気で少子化のトレンドを逆転したいなら、「第3子以降1000万円」の出産育児一時金を給付するくらいの覚悟が必要ではないか。

では、財源はどうか。財源の確保は容易ではないが、政府がまとめた今回の対策の財源は総額で3兆円~3兆円半ばもあり、この予算を改廃すれば3兆円程度の財源は確保できることを忘れてはいけない。というのも、仮に出生数が80万人から120万人に増加しても、そのうち第3子以降の子どもが30万人ならば、3兆円(=30万人×1000万円)の財源で賄うことができる(第1子以降1000万円だと12兆円もの巨額な財源が必要)。しかも、この施策のポイントは、第3子以降1000万円という異次元な政策であっても、その効果がなく、出生数がほとんど増えなければ、追加的な予算はほとんどかからない。第3子以降が10万人しか増えなければ、1兆円の財源しかかからない。なので、数年間、実験してみても効果がなかったら、止めればよい。

もっとも、本稿で指摘した第3子以降の重要性は政権も理解している可能性がある。なぜなら、児童手当の見直しにおいて、政府は第3子以降の支給額を加算している措置を拡充する方針のためだ。だが既述のとおり、行動経済学的な知見を考慮すると、児童手当の拡充ではなく、出産育児一時金として一括で給付するほうが効果が大きい可能性がある。

年末に結論を先送りした財源の問題もあるが、対策の効果検証のほうがより重要だ。すなわち、岸田首相の強いリーダーシップのもと、政府が実施する今回の対策のフォローアップが重要であり、各施策の効果検証を行ない、今後の施策の序列や優劣を変更していくことが必要だ。そのうえで、出生数の増加を目標に掲げるならば、本当にコアとなる政策手段を見定め、一点突破の姿勢で、たとえば、「第3子以降1000万円」といった施策に対して資源を集中投下する検討も行なうべきではないか。

なお、出生率低下の主な要因は出産と育児の機会費用の上昇というのが経済学の標準的な見解であり、この関係では、企業の環境づくりがもっとも重要だ。たとえば伊藤忠商事は働き方改革の成果として女性社員の合計特殊出生率を公表している。これを模範にして、企業の取り組みを「見える化」する観点から、上場企業には財務諸表に非財務情報として出生率の公表を義務付けることも選択肢としてあり得る。

「産めよ増やせよ」というムードをつくるのは望ましくない。この点に留意しながら、企業とも連携し、若い世代の誰もが希望すれば結婚や出産・育児と仕事の両立が可能な環境整備を図る必要があろう。