その他  国際交流  2022.11.09

世界秩序形成のための新たな枠組みに関する基本構想

国際政治・外交

米中対立がもたらす世界秩序の不安定化

1)米国の圧倒的優位性の低下と中国の台頭

戦後の世界秩序形成の根幹は米国の強力なリーダーシップと安定的な秩序形成への貢献に対する国際的な信頼に基づいていた。そのリーダーシップと信頼が21世紀入り後、揺らぎ始めた。グローバル経済における米国のシェアの低下や世界秩序安定のために積極的な役割を担う姿勢の後退が世界秩序形成に悪影響を与えている。

世界秩序形成をリードする影響力の重要な要素の1つは経済規模である。IMFの世界経済見通し(20224月)のデータベースによれば、米国GDPの世界全体に占めるシェアは2001年の31.3%から2010年の22.7%へと急低下した(図表参照)。その間、中国のGDPのシェアは2001年の3.9%から2010年の9.1%へと急拡大した。2020年時点でのシェアは米国が24.5%、中国が17.4%とすでに米国の圧倒的優位性は失われている。2020年代後半は中国の成長率が低下傾向をたどる見通しであるが、それを前提としても2030年には両国とも20%強のシェアでほぼ肩を並べると予想されている。中国は経済力の拡大とともに、軍事力も増強し、2010年代に入ると外交面での対外的な強硬姿勢が目立つようになった。それとともに、米国は中国を脅威とみなすようになった。

【図表 日米中3GDPの世界シェア推移】

fig01_seguchi.png

(資料 IMF World Economic Outlook, April 2022

2)米国の対中外交方針の転換

中国の脅威に対処するため、米国オバマ政権がアジア太平洋重視の「リバランス(ピヴォット)政策」を打ち出したのは201110月のことである。オバマ政権では重大な政策方針の転換を発表したが、具体的な政策実践面での変化は明確ではなかった。

2017年にトランプ政権が発足すると、「アメリカ・ファースト」をスローガンとして掲げた。それとともに従来米国が世界平和の維持と経済的繁栄の促進によって世界秩序の安定確保のために果たしてきたリーダーとしての役割を放棄した。トランプ政権はEUを厳しく批判し、米欧間の信頼関係が失われ、EU諸国は米国からの独立性を強める方向へと傾いた。一方、中国に対しては強硬姿勢を示し、デカップリングの推進という方針に基づいて関税引き上げ、技術摩擦などを実施し、米中関係も急速に悪化した。

2021年にバイデン政権が発足すると、「アメリカ・ファースト」の方針を取り下げ、同盟国との関係重視を打ち出したため、米欧関係は大幅に改善した。しかし、米国内の強い反中感情と議会における超党派での対中強硬論支持を考慮し、対中政策の基本方針はトランプ政権の方針をほぼそのまま継承した。このため、米中関係は米欧関係とは対照的に一段と悪化している。とくに中国政府が採用する新型コロナ感染予防策(いわゆるゼロコロナ政策)に対する批判、新疆ウイグル自治区や香港における人権問題およびロシアのウクライナ侵攻をめぐる対立は両国間の関係をより一層悪化させた。

この米中対立の根底には、米国が覇権国家として軍事力・経済力・政治力すべての面で揺らぐことのないトップリーダーの地位を保持し続けたいと考え、そのために中国の台頭を抑制しようとする姿勢がある。とくにバイデン政権は国内政策運営において議会対応に苦しんでいることもあって、議会および選挙対策として対中強硬姿勢を貫くことにより政権に対する支持基盤の確保を狙っている。世界秩序安定のための外交ではなく、反中感情の強い国民や議会に迎合する、選挙目当ての「内向き外交」となっている。

とくに2022年入り後は、バイデン政権の支持率が戦後の大統領の中で最低レベルにまで低下し、秋には中間選挙が実施されるため、内向きの傾向が強まっている。

一方、中国も21世紀入り後の急速な国力の増強を背景にナショナリズムが高揚し、とくに2008年秋のリーマン・ショック後は目覚ましい経済回復を背景に対外強硬姿勢が強まった。こうした国内世論の変化を背景に、2010年前後以降、従来型の対米協調的な外交姿勢は弱腰外交として批判されるようになった。中国政府はそうした国内世論を意識し、攻撃的な表現や施策で対外強硬姿勢を強調する「戦狼外交」を展開している。

このように米中両国の政権は共に国内政治基盤の安定確保を優先し、外交面でも国内の評判を意識して相手国に対する強硬姿勢を強めており、「内向き外交」という共通の問題点を抱えている。双方が国内世論を強く意識して対外強硬姿勢を強めたため、両国間の対立は悪化の一途をたどってきている。この「内向き外交」の構造を改めない限り、両国の間で協調に向けた妥協が成立する余地は乏しく、米中対立はますます深刻化する。こうした米中対立激化は世界秩序形成にとって大きな不安定要素である。

3)台湾をめぐる米中武力紛争リスク

足許のロシアによるウクライナ侵攻をめぐっても、米中両国は互いに相手国を厳しく批判するばかりで歩み寄りの姿勢が見られていない。中国がロシアを批判せず、米国の反ロシアの姿勢を厳しく批判しているため、米国内では反中感情が一段と強まっている。そうした状況下、共和党のポンペオ元国務長官は223月に台湾を訪問し、台湾を国家として正式承認すべきであると発言した。8月にはペロシ下院議長が台湾を訪問した。下院議長が台湾を訪問したのは1997年のギングリッチ下院議長以来25年ぶり。ペロシ氏は台湾の民主主義を米国が支援する姿勢を強調した。これらの米国の著名な政治家の台湾訪問は中国を刺激し、両国の溝はますます深まっている。

仮に米中対立が長期化し、それを背景に米国が台湾独立を挑発し続け、台湾が独立に向かって実際に動き出せば、台湾を核心利益と位置付ける中国は台湾の武力統一に動く可能性が高まる。そこで米国が台湾防衛のために武力介入すれば、米中武力衝突が生じ、世界大戦へと発展するリスクが高まる。これは世界秩序にとって最悪のシナリオである。

何らかの仕組みにより米中対立悪化の増幅にブレーキをかける方法を見出すことができなければ、米中対立の深刻化が世界秩序を混乱に巻き込むのは時間の問題であるように見える。しかし、今秋に予定されている米国の中間選挙と中国の第20回党大会が終わるまでは、「内向き外交」を改善できる可能性はほぼない。両国におけるこれらの重要政治日程が終わったとしても、両国は国内政治優先の対外強硬姿勢を続ける「内向き外交」の問題点を自力で修正できる可能性は低い。すなわち、両国が二国間でこの問題を改善することは期待できない。将来の世界秩序不安定化リスクの軽減のためには、両国政府以外の主体による関与が必要である。

両国政府以外の主体として考えられるのは、短期的には独仏等EU諸国と日本が協力し、米中両国に対して関係改善のための具体的な施策を実施するよう求めることである。ただし、欧州諸国は米国が第三国の説得に耳を傾ける可能性に対して懐疑的であるほか、日本政府は米国に対して欧州諸国のように米国政府の意に沿わない要望を明確に伝えること自体が難しいという問題がある。

中長期的には、こうした従来型の国家レベルの働きかけではなく、国家を超える「民」non-state actorsによる世界秩序形成への働きかけも1つの選択肢と考えられる。この点については次章以下で論じる。

全文を読む

世界秩序形成のための新たな枠組みに関する基本構想