メディア掲載  エネルギー・環境  2022.10.06

核融合は手の届く所にある 設計、材料、制御…主要な課題に解決の見通し 何としても日本の手でやり遂げ新たな基幹産業に

夕刊フジ(2022年9月19日)に掲載

エネルギー・環境

たゆまぬ技術開発により、太陽のエネルギーを再現する「核融合」は今や夢物語などではなく、手の届く技術になった。設計、材料、制御などの主要な課題はすでに解決の見通しが立っている。

いま国際協力で、「核融合実験炉(ITER=イーター)」の建設がフランスで進んでいる。完成は2020年代後半で、35年には、普通にみる火力発電所と同等の出力に達する予定だ。

この建設コストは、2.5兆円前後とされている。また実用化の前に、もう1つ、同じぐらい金額をかけて実証炉を造る必要がある。

そんなにかかるのか、という心配はごもっともである。だがこれは、幾つもの方法を試し性能を確認する「実験」をするためのコストだ。

実用段階になれば、発電コストは、既存の原子力発電と比べても全く遜色がないと推計されている。高くつくのは実験段階だけの話だ。

実用段階になれば、安価で、CO2(二酸化炭素)を出さず、無尽蔵な発電技術を人類は手にすることになる。

また核融合炉は原理的に安全だ。

既存の原子炉で用いる「核分裂」反応は、起こすのは簡単だが、止めるのに失敗すると、炉心溶融や核爆発といった過酷事故が起き得る。「核融合」はその逆で、起こすのは難しいが、何かあるとすぐ反応が止まってしまうので安全になる。

いま温暖化対策として、日本は毎年数兆円といった莫大(ばくだい)な費用をかけている。だがそれよりも、核融合発電に集中投資することで、実現を前倒しすべきではないか。

なお、新しいアイデアによって小型の核融合炉が可能になり、数年先には実用化できる、といった報道が散見される。だが、残念ながら、それほど事は簡単ではない。

核融合には、超電導コイル、プラズマ、廃熱部、ブランケットといった要素技術があり、このすべてを組み合わせると必然的に普通の原子力発電所ぐらいの大型のものになる。新しいアイデアというのは、大抵はこの一部の改善案にとどまっており、大型の核融合炉が不要になるということはない。むしろそれらのアイデアは、大型炉を改良してゆくためにこそ有益になる。

宇宙開発における民間企業「スペースX」の成功は、NASA(米航空宇宙局)のアポロ計画やスペースシャトル計画で開発した技術があったからこそ実現した。核融合開発では、ITERなどの大型の実験炉が、宇宙開発でのアポロ計画にあたる。これは予算規模が大きく時間もかかることから、国家が主導するほかない。

核融合ができれば、温暖化問題もエネルギー問題もすべて解決する。これは何としても日本の手でやり遂げ、新たな基幹産業としたいものだ。