メディア掲載  エネルギー・環境  2022.09.29

日本は欧州の「脱炭素」破局に学べ 「ロシアへの経済制裁」呼び掛けたG7の権威は失墜 中露、資源共有で途上国を囲い込み

夕刊フジ(2022年9月13日)に掲載

エネルギー・環境

世界的な「エネルギー危機」が到来している。ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアによるウクライナ侵攻を受け、エネルギー価格が急騰し、各国経済を直撃している。この危機は長期化・深刻化する可能性が高く、欧州諸国はロシア依存に直結する「脱炭素」を棚上げして、石炭火力に大きくシフトした。G7(先進7カ国)に対抗して、途上国を囲い込もうとする、独裁主義のロシアと、習近平国家主席の中国。岸田文雄首相はやっと、「原発再稼働」と「次世代型原発の開発・建設」の検討を指示した。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は、自滅的な「再エネ最優先」の廃棄を強く提案した。


ドイツはこれまで、「脱原子力」と「脱炭素」を同時に進め、再生可能エネルギーへ移行するとしていた。だが、実際にはエネルギーが足りず、また不安定だった。昨年はたまたま風が弱く、風力発電の量も少なかった。このため、エネルギー価格は高騰し、例年以上にロシアのパイプラインによる天然ガス輸入に大きく依存することになった。

この弱みを握ったロシアのプーチン大統領は今年2月、ウクライナに侵攻した。「経済制裁をするならしてみろ、天然ガスが買えなくなって困るのはお前たちだ」と見透かしたわけだ。

ドイツだけでない。他の欧州諸国も「脱炭素」を進めた結果として、ロシアへのガス依存を深めてしまった。

欧州各国は、ウクライナ侵攻が始まると経済制裁として「エネルギー輸入の段階的停止」を宣言したが、逆にロシアからガスの供給を止められつつあり、エネルギーの不足と価格暴騰が起きた。

英国では、このままではこの冬に家庭の光熱費が倍増して年間60万円に達する見込みとなった。エリザベス・トラス新首相は就任直後、大急ぎで救済策を発表した。

慌てた欧州は、「脱炭素」はどこへやら、化石燃料の調達に必死だ。英国は新規炭鉱を開発する。ドイツ、イタリアは石炭火力を再稼働する。欧州は世界中から石炭を購入し、液化天然ガス(LNG)も米国から大量に買い付けている。

欧州の一連の爆買いのせいで、エネルギーの国際価格が暴騰、危機は全世界に伝播した。

これに対処するため、インド政府は石炭火力発電所にフル稼働を命じた。さらに、今後23年で1億トンの石炭増産をする。

中国は年間3億トンの石炭生産能力を今年だけで増強する。これは日本の年間石炭消費量の倍近くだ。

最もひどい目にあっているのは資源を持たない貧しい国だ。スリランカは経済が破綻して大統領が国外逃亡した。政権へのとどめの一撃は、自動車用のガソリンが買えなくなり枯渇したことだった。

欧州は「脱炭素」政策でエネルギーの安定供給をおろそかにし、自らは破滅的な結果になり、世界中に迷惑をかけている。

先進国は「ロシアへの経済制裁」を呼び掛けているが、途上国はこれにほとんど参加していない。G7の権威は失墜した。

ロシアの原油は輸出先が変わり、先進国ではなくブラジル、エジプトなどになった。サウジアラビアとUAE(アラブ首長国連邦)もロシアから購入し、代わりに自国の石油を輸出することで、「産地ロンダリング」をしている。燃料は肥料生産に必要で、肥料は食料生産に必要だが、ロシアは燃料と肥料、食料の一大輸出国だ。

多くの途上国は、宣教師のように「再生可能エネルギー」を押し付けたり、内政に干渉するG7よりも、余計なことを言わず本当に必要なものを与えてくれるロシアや中国になびいている。

独裁主義のロシア・中国は、世界中の途上国と化石燃料はもとより、あらゆる資源を共有し、民主主義のG7との「政治システム闘争」を続ける構えだ。

この闘争に負ければ、日本も「自由な国」では無くなる。

日本は「国力」を高めねばならない。欧州の破局に学び、自滅的な「再エネ最優先」を止め、原子力と化石燃料の確保を優先すべきだ。エネルギー政策は、安全保障と経済に軸足を戻すべきだ。