論文  財政・社会保障制度  2022.08.08

自治体のデジタル化と東京自治体クラウドの取り組み

月刊『地方財務』(株式会社ぎょうせい)2022年7月号掲載

税・社会保障

はじめに

本稿では、202111月より稼働した東京都立川市、三鷹市、日野市のクラウドを通じた共同利用情報システム(通称東京自治体クラウド、以下、東京自治体クラウドとする)について検討する。

本稿で東京自治体クラウドに焦点をあてるのは、現時点における自治体の共同利用の状況のうち、東京自治体クラウドが、システムの共同利用だけでなく、業務の共通化を進めているため、業務オペレーションも含めた共同利用に最も近い形になっていると考えるからである。また、コロナ禍となり、国の政策が、自治体クラウドから自治体DX推進計画・システム標準化に移行するなかで、それに順応して稼働までこぎ着けていることから、現在、自治体が直面している、また、これから直面していくシステム標準化とクラウド化に対して、東京自治体クラウドの取り組みが、自治体の参考になると考えるからである。

デジタル化はますます重要になっている。昨今の社会経済状況のなか、デジタル化は経済競争力に影響する。自治体においては、人口減少・少子高齢社会が加速するなか、デジタル技術を活用した持続可能な地域社会や市民生活が望まれており、また、自治体職員も減少するなか、デジタル化による行政サービスの向上、行政の効率化も期待されている。しかし、デジタル化によって、増大するシステム関係経費の縮減や、業務の見直しによる事務効率化、人材・スキル不足の補完などが自治体の課題になっている。

日本の行政のデジタル化は、1950年代後半に、気象庁が汎用コンピュータを導入したことから始まった。市区町村では、1960年に大阪市が導入し、都道府県では、1963年に東京都と神奈川県が導入した。都道府県では、人事給与、統計、税務、会計事務を中心に電算化が進められ、市区町村では統計、給与計算、国保・年金、使用料、税務、財務管理などに適用された。しかし、1990年代になると、メインフレームやホストコンピュータと呼ばれる大規模なシステムの高コスト構造が指摘されるようになった。199412月には「行政情報化基本計画」が閣議決定され、「紙による情報の処理」から「通信ネットワークによる電子化された情報の処理」へ移行することとし、1人一台パソコンの整備や庁内LAN・霞ヶ関WANの整備が掲げられた。

経費削減や業務効率化、人材不足などの課題を克服する手段として、共同利用が注目され、2000年代からは、情報システムの共同アウトソーシングが検討されてきた。その後、自治体クラウドと業務システムの標準化に移り、デジタル庁の創設後は、20業務のシステム標準化やガバメントクラウドが検討されている。

1章では、これまでの共同利用の取り組みとして、共同アウトソーシングと自治体クラウドを概観する。第2章では、ガバメントクラウドを概観する。第3章では、東京自治体クラウドについて検討する。

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